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第五十二話 プルプル

「本当に嬉しいよ。初めてまともに地球人と知り合いになれた。自分のことを本来のプルプル星人として話せて、こうして一緒にご飯が食べられるなんて……実は悠里ちゃんを解剖しながら、『この子と楽しくお喋りできたらいいのになあ』って思ってたんだ」


 パスタを平らげた私は、ステーキに取り掛かっているところだった。『解剖』の言葉に、思わず肉を切るナイフが止まった。

 そうだった。私、解剖されたんだよな。眼の前のジョージくんに。内蔵のみならず骨や血管まで取り出されて床に並べられただなんて、恐ろしいことをされたとは思う。けれど苦労してるっぽい彼の役に立てたなら良かったし、結果私は時間球が見える特異体質を手に入れたのだ。


「……ねえ、やっぱり解剖ってさ、こんな風にメスで身体を開くの?」


 興味本位の質問だった。


「うん。まあ、道具は使わないけど。僕たちは指先を鋭く変質させて解剖するんだ。あ、大丈夫だよ。完全麻酔っていうか、解剖される側が痛みを感じないように前処理をするから。それで、指でこうやって……」


 ジョージくんは私の手を取ると、人差し指でスーッと手の甲を撫でた。


「うわ、くすぐったい!」

「あはは。悠里ちゃん、くすぐったがりなんだね」

「ぎゃはは! やめて、腕登ってこないで! ふへへ! くすぐったい!」

「ふふふ。本当に弱いね。あの夜はぐっすり眠ってくれていて良かった」


 いつの間にやら八幡ちゃんはドリンクバーのおかわりに行ってしまって、ジョージくんは私の隣に移動していた。彼はくすぐられて笑い悶える私にウケたのか、止めるどころか更に弱い場所を探りにかかってくる。


「ぐふっ! くくく首だめ! ぎゃはは!」

「悠里ちゃん面白いなあ。あの夜はね、うずまき管を出すためにココも開けたよ。こんな風に」

「ひゃぁっ! 耳の後ろ! うひゃあぁ!」

「あとココとー」

「脇! ひゃははは!」

「もちろんココも!」

「お腹! あっはははははは‼」


 やばい。悶え死ぬ! ジョージくん、くすぐり方が絶妙すぎる。

 逃れられない猛烈なこそばゆさに、場所がファミレスであることも忘れて私は滑稽な声を上げながら身を捩る。ああ、笑い過ぎで涙出てきた。


「……何してんだ」


 低い声が聞こえて、やっとジョージくんのくすぐり攻撃の手が止まった。ひー、助かった!


「あ! 一馬くん! お待ちしてましたー。学校終わったんですね。おつかれさまです!」


 ジュースのおかわりを手にした八幡ちゃんが、トコトコ戻って来る。オレンジモヒカンに声をかけていた。しかし幼児の高い声は、秋月くんには聞こえていないようだ。


「てめえ。今そいつに何してた?」

「えっ‼ わわわ。何って、触ってただけ……」

「あぁ? 触ってたァ?」

「わわわわわ!」

「秋月くん!」


 笑いまくって酸欠寸前だった私が息を整えている間に、ジョージくんが凄い形相のモヒカン男に胸ぐらを掴まれていた。耳障りな金属音を立てて、カトラリーが床に落ちて散らばる。


「ヒィィィ‼ 何このレプレプ星人みたいな頭の人‼ 怖いよー‼ 顔こわい!」

「違いますよ、ジョージくん。一馬くんはレプレプ星人じゃなくて、地球人の男の子です」


 秋月くんに掴まれたジョージくんのシャツの首元が、ギリギリと音を立てている。殺気立ったモヒカン頭の横をすり抜けて席に座ると、八幡ちゃんは能天気な訂正を入れた。

 そこでようやく、秋月くんは小さなエイリアンの存在に気がついたようだった。


「八幡。何だこの痴漢野郎は」

「秋月くん、この人痴漢じゃなくてね」

「お客様! どうされましたか!」


 慌てた様子の店員が二人、駆け寄ってくる。昼時で賑わった店内の注目が、一気に私達に集まった。


「あっ? 菅原さん? ちょっと、あなたまたトラブルを……勘弁してくださいよぉ」


 駆けつけた店員の一人が、ジョージくんを見て大きくため息をついた。


「バイトリーダー、お久しぶりです」

「え、知り合い?」

「うん。僕前ここで働いてたんだ。クビになっちゃったけど」


 先ほどジョージくんが、『何度も仕事をクビになった』と話していたことを思い出す。『距離感がおかしい』とプルプル仲間から度々指摘されてきたという話も。


「当時はジョージくん、地球人としての適切な振る舞いを今よりも分かってませんでしたからね。接客業はハードルが高かったんですよ」


 私達の会話を聞いた秋月くんは何かを察したのか、ジョージくんを解放した。相変わらず顔は怖いままだが。


「あの、ごめんなさい。なんでもないんです! クリスマス会のための寸劇の練習なんです。すみません、お騒がせしました! もう静かにします!」


 咄嗟に口から出た『寸劇の練習』ってなんだよと心の中で自分につっこむ。私はヘラヘラと笑いながら店員に説明した。怪訝な顔を返されたが、何とかなったようだ。促されて私の隣に座りメニューを広げた秋月くんの注文を取ると、店員達はチラチラとこちらを振り返りながら去っていった。


「で? 説明しろ。お前は誰だ?」

「プルプル星人ですぅ……」


 向かい合った秋月くんから凄まじい殺気を飛ばされながら、プルプル震えたジョージくんは、再び自己紹介を始めたのだった。

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