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第五十一話 ジョージ

 プルプル星人のジョージくん。地球は彼にとって、初めて降り立つ異星なのだそうだ。


「初めて母星を離れたんだ。年齢? 悠里ちゃんと同じくらいだよ。日本では十八歳は成人なんだよね。プルプル星と同じだね。僕らは大人になると、誰もが一度は星を離れて異星で一定期間を過ごすんだ。成人儀式みたいなものだよ」

「その姿は、やっぱり擬態してるの?」

「まあね。でも八幡さんみたいな大掛かりな変身じゃないよ。僕たちプルプル星人は、元々地球人と似たような姿形をしてるんだ。肌の色をほんの少し変えて、頭についてる触角を消すだけで済む。あとは服を着れば隠れてしまうし。紛れこむのが簡単だから、地球はプルプル星人にとって初心者向けの惑星なんだよ」

「へえー」


 エイリアン二人と共に、私はファミレスでランチを食べていた。怖がらせてしまったお詫びにと、ジョージくんがご馳走してくれるというのだ。なんて気遣い上手なエイリアンだろう。

 秋月くんにも連絡を入れておいた。講習が終わったら、合流できるかな。

 

「宇宙全体で見ると、二足歩行の人型生命体は結構珍しいんですよ」

 

 八幡ちゃんがオレンジジュースをストローで吸い上げながら説明を加えた。


「多くがボクみたいに、物質の肉体を常には持ちません。意識のエネルギーとして存在してる。だから地球人には普段は見えない。地球人の皆さんが『なかなか異星人に遭遇できない』というのは、そのためです。本当はこんなに近くにいるのに、滑稽ですよね」

「僕も地球に来てから驚いたよ。この星の人類文明はそれなりに発展しているようにも見えたけど、まだまだ未熟なんだね。戦争が絶えないし、感情に囚われてる人も多すぎる」


 ボックス席の向かい側に、エイリアン二人は並んで座っていた。二人ともその辺の日本人にしか見えない。


「ジョージくんも、時間球を集めてるの?」


 パスタをフォークにクルクル絡め取りながら私は訊ねた。


「ううん。僕の目的はあくまで地球人に紛れて生活しながら、地球について学ぶことだから。時間球の採取はしないよ」

「そうなんだ!」


 そんなエイリアンもいるのか。地球にやってくる異星人達の目的は、すべて時間球目的だと思っていた。


「けど結構苦労も多いんだよ。異星なんて、超絶アウェーだもん」


 ハァ、とジョージくんが頬杖をつきながらため息をついた。


「最初のうちは色々と支給品があったり母星からのサポートが得られるけど、しばらく経ったら全て自力で何とかしなきゃいけないんだ。ハローワークで仕事を探して、必要なら資格の取得もする。そのために勉強もして、専門学校行ったり、免許を取ったり……お金が足りなくなったらダブルワークだってするし」

「そんなところまで地球人になりきって頑張るんだ?」

「そうだよー。生活を確立するまで、予想以上にハードだったよ。仕事も何度もクビになったしさぁ。地球人の生活を送りながら、ちょいちょい母星から提出必須の課題が出されるんだ。地球人観察のレポートも定期的に書かなきゃいけないしね。忙しいもんだよ」


 本当に大変そうだ。ジョージくんは痩せているけど、きちんと三食食べているのだろうか。ちょっとだけ心配になった。


「でも八幡さんが助けてくれるから、とっても心強いんだ」

「困ったときはお互い様です。ボクもプルプル星人には度々お世話になってきましたから」


 八幡ちゃんがにっこり笑った。こんなに小さな子供の外見なのに、頼もしい表情だ。


「良かったね」

「うん! 本当に八幡さんと知り合えて幸運だったよ。おかげでこんな風に、悠里ちゃんともお友達になれた」

「うん。私もエイリアンの友達が増えて嬉しい」


 何とも平和な空気が流れている。私はパスタを頬張りながら笑った。

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