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第四十九話 泣かせてません

「やだやだっ! 誰かっ」

 

 どうにか声を出さなければ。喉が潰れそうな感覚に陥ったが、なんとか絞り出せた。けれど意思に反して、全然大きな声は出せない。


 しかし、掴まれた腕は、瞬時にぱっと解放された。


「え?」

「ごめん。嫌だった?」

「はい?」

「だって今、『やだやだ』って」

「……?」


 なんて顔をしているのだろう。男の眉はハの字に垂れ、瞳にはいっぱいの涙が溜まっていた。唇がぶるぶる震えている。これは、泣き出す直前の子供の表情そのものだ。


「えっ。ちょっと……」


 大の大人の男が人前でさらそうとはしない顔だろう。彼の異様な様子に圧倒されて、私は逃げるというコマンドをすっかり忘れて立ちすくんでしまった。


「う、う、う……うわぁあーん!」

「ええええ」

「ご、ごめんなさいっ! ひっく……うぅ、ごめんなさああい! ううぅっ! ひっく!」


 一粒涙が落ちたと思った瞬間、男はとち狂ったように泣き出した。


「あのう、ねえ! 大丈夫ですか!」


 たった今腕を強く掴まれて痛かったのは、私の方なのだが。大丈夫なのか訊かれるべきは私のような気がするのだが。


「ごめんなさいっ! うううッ!

 ごめ……ゲホッ! ごめんなさい……! 距離感バグ直せって、よく仲間にも注意されるのに……ううぅゴホッ! ごめんなさい! 許してください!」


 常軌を逸した泣き方をする男は、しゃがみ込んで激しく嗚咽した。

 さっき私がピンチだった時には誰もいなかったはずなのに、今になって散歩するおじいちゃんおばあちゃんやら、ベビーカーを押す若い夫婦やらが近くを通りがかる。誰もがチラチラとこちらに注目していくではないか。


「ちょっと……ねえ。とりあえず泣き止んでくれませんか?」


 これじゃあ、私がいじめて泣かせたみたいな構図じゃないか。


「うぅ……ぐすぐす。ごめんなさい……ぐすぐす。僕、一回涙がでちゃうと、なかなか止め方が分からなくて……ぐすぐす」


 鼻水がすごい。なんで垂れ流すのだろう……鼻のすすり方を知らないみたいだ。さながら小さな子供だ。

 私は鞄からティッシュを取り出すと、「はい」と男に差し出した。


「うぅ……ありがとう……話に聞いていた通り、悠里ちゃんは優しい人だね」

「え?」

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