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第四十七話 センチメンタルな帰り道

 やはり人の多い場所というのは、沢山の時間球が落ちている。焦った人や歩調の早い人に引っ張られて、本当は時間に余裕があるはずの人の気持ちまで急いてしまうからだ。


 人の無意識は誰かの無意識に引っ張られる。そして無意識の質が似ていれば似ているほど、強く引き合う。全然知らない赤の他人であっても、触れ合っていなかったとしても――――そんなことを、ある時八幡ちゃんが教えてくれた。


 だから私は人混みが苦手なのかもしれない。急ぐつもりはないし、そもそも立派に急げるだけのスキルも持ち合わせていないのだが、人の多い場所に行くと、不安に駆られるのだ。


 きっとそれは、孤独を感じるから。私だけが急げない。他の皆についていけない、のろまだから。多くの人の無意識のスピードに、私だけが乗り込めないのだ。


 そんな自己分析をしながら、私は人気のない公園の中をトロトロ歩いていた。模試の帰り道である。まだ昼前で、今日は冬の東京らしい快晴だ。たまに小さな子供が母親と遊ぶ姿が目に入った。


 今日の模試の手応えも、なかなか良かった。そういう意味では、私の気分も良いはずなのだ。

 けれどついセンチメンタルな考えに至ってしまったのは、きっと一人きりで歩いていたからだろう。

 秋月くんはタックの難関大受験者向け講習を受けるために学校に残っていて、八幡ちゃんは異星人仲間と約束があると朝から出かけているのだ。


――いつも一緒にいたんだなぁ


 当たり前になりすぎていた。私の隣には、いつも秋月くんと八幡ちゃんの二人か、二人のうちのどちらかが歩いていたのだ。


――早足になったことなんて、一度もなかったな。きっと私ののんびり歩きに、いつも合わせてくれてたんだ


 小さな八幡ちゃんはともかく、秋月くんはそうだろう。彼は「遅い」とか「のろま」などと言わずに、ただ隣を歩いてくれていたのだ。


 一人になった途端、当たり前に享受していた秋月くんの優しさを、痛い程感じた。


「やっぱり学校に戻ろうかな」


 彼の講習が終わるまで自習室にいようか。空腹を感じてなんとなく家に帰ろうと思っていた私は、考えを変えてくるりと方向転換した。

 その時。


「ぶっ!」

「わわっ!」


 背後の超至近距離に、誰か立っていた。真後ろへと方向転換した私は、その人物の首辺りに顔面をぶつけたのだった。

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