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第四話 オレンジ色

 最初の一つを見つけた二階から、階段で一階へ降りた。

 そこから渡り廊下に続いて、中庭を突っ切って、光る小石は旧校舎の中へと続いている。


 私の勘は当たったらしい。不思議な小石は、スカート越しでは消えることはなかった。直接素手で触らなければいいみたいだ。スカートの上の小石は、どんどん増えていった。


「こんな場所に入るの?」


 現在使われている校舎は去年新設されたばかりの建物で、まだ新築の香りがする。そんな新校舎の隣に中庭を隔てて残っているのが旧校舎だ。まだいくつかの特別教室がたまに使用されているが、ほぼ空き教室である。廊下は狭く、窓も少なく薄暗い。古さ以上に佇まいがオドロオドロしいので、日頃生徒達から『廃墟』と呼ばれていた。


「えぇ……鍵の意味ないじゃん」


 一応観音開きの扉に鎖と南京錠が設置されてはいたが、肝心の鍵は壊れ、ブラブラと鎖に引っかかっていた。ごまかすように鎖がドアノブにゆるく巻かれている。扉は手で触れるまでもなく開いた。


「やっぱり中まで続いてる」


 薄暗い廊下の上に、小さな光の列は続いていた。


――どこまで落ちているんだろう


 私は決して勇敢な性格ではないが、怖がりでもない。一度に二つ以上のことをできないのも、多分色々な感覚に鈍感だからだ。恐怖心然りである。


 いかにも何かが出そうな不気味な空間が向こう側に広がっていたが、私の身体はドアの隙間に滑り込んでいた。




◇◇◇




「ここ……?」


 小石の列は、長い廊下の途中で突然途切れた。

 そこはある部屋のドアの前だった。


「科学準備室」


 ひび割れた教室表示の木札を、つぶやくように読み上げた。

 まじか。こういう不気味なシチュエーションの中でも、トップレベルに恐ろしい怪奇現象が起こるお決まりのスポットじゃないか。


 さすがの私も足がすくんだ。辺りを見渡してみたが、やはり小石の列はここでおしまいのようだ。


 ガタガタ


 部屋の中から、椅子を引くような音がした。


――誰かいる


 時が止まった気がした。

確実に誰かがこの中にいる。

電気もつけずに、薄暗い中に。


「誰かいるのか?」


 声がした。もう確実だ。誰かいる。しかもこちらに気づいた。


「あ。あ……あ……えっと」

「あ? 誰だ?」


 不機嫌そうな男の声だった。先生じゃない。生徒か? 何してるんだろう? 授業中なのに……あ、私も人のこと言えないな。サボってるのかな。


 現実的な緊張と同時に、声の調子からどうやら幽霊とかそういうものではないという確信が生まれ、私はいくらか平静さを取り戻してきた。


「ごめん。今両手が塞がってて。ドア開けられなくて。ハハ」

 

 状況を説明しながら、なんだか可笑しくなって「ハハ」と笑ってしまった。昔から緊張が高ぶると、なぜだか笑いだしてしまう変な癖があった。


「……」


 ガツンガツンと、建付けの悪いドアが蹴づかれながら開いた。


 目の前に、大きな壁。じゃなかった。人だ。背の高い男子生徒だ。


秋月(あきづき)くん」


 見覚えがあった。彼のことを知らない生徒はこの学校にいないだろう。とても目立つのだ。今はなぜかサングラスをかけているけれど……。ん? なんでサングラス? え、怖いんですけど。


 でも間違いない。


――秋月一馬(かずま)  


 彼はオレンジ色のハードモヒカン頭なのだから。

 グラサンにモヒカン。強烈すぎる。怖い。


「誰だ。お前」


 そうですよね。私のことは知らないか。一応隣のクラスで二年間やってきたんだけど、授業一緒になったことなかったもんね。

 うちの学校は単位制だから、選択する授業が被らない限り三年間顔を合わせることのない生徒も多いのだ。


渡邉悠里(わたなべゆうり)っていいます。渡邉って、難しい方の渡邉ね。秋月くんのクラスには確か簡単な方の渡辺(わたなべ)くんが……」

「どうでもいいけどアンタ」


 私のどうでもいい渡邉と渡辺についての解説をぶった切って、グラサン秋月くんは「信じらんねえ……」と呟いた。重力に逆らって、モヒカンの毛先がピンと天井を指していた。私はそんな彼のオレンジ色の髪を見て――――


「パンツ見えてんぞ」


 綺麗だなと思ったのだ。

 奇しくも私のこの日の下着もオレンジ色だったけれど、この時綺麗だと思ったのは、決してパンツの色じゃない。

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