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第三十二話 お誘い

 初めて秋月くんの家を訪れることになったのは、彼が共に夕飯を食べることが、週に何度かの渡邉家のルーティーンに落ち着きかけたころだった。


「ばーちゃんが連れてこいってさ」

「え?」


 今日は秋月くんのバイトがない日だ。自習室に寄っていくか、うちへ直行するかを訊こうとしていた時だった。


「しょっちゅう夕飯食わせてもらってるって知ったら、悠里もこっちに連れて来いってうるせーんだ」

「それはつまり」

「今日はお前が俺の家でメシ食ってけよ」

「まじですか」


 突然の提案に、身体に緊張が走った。


「何ビビってんだよ」

「やだなぁ、ビビってなんか……」

「膝ガクガクじゃねえか」


 言われてみれば。階段を降りる私の足は、まるで一昔前のロボットさながらだ。引退したASIMOだって、もっと滑らかに動くだろう。


「取って食われたりしねーよ」

「うん、うん。分かってるよ」

 

 そう返したものの、私の頭の中では勝手に描いた秋月くん一家のイメージ図が暴走していた。


――やっぱり皆背が高いのかな……そして強面なのかな。いや、でも兄弟全員お父さんが違うんだし、似てないのかも。あばあちゃんと叔父さんが同居してるって言ってたけど、叔父さんも在宅してるのかな……叔父さんって母方かな?


 秋月くんから聞いた家族構成通りに全員をイメージすると、老若男女のモヒカン頭しか浮かんでこない。私の想像力、いくらなんでも乏しすぎやしないか。


「妹弟達も悠里に会うの、楽しみにしてそうなんだ」


 ちょっとだけ控えめになった口調だ。私は隣を歩く秋月くんを見上げて、大きめの声で返していた。


「お夕飯、ごちそうになります!」

「今日は一馬くんのおうちですね。楽しみだなあ。とりあえずボクは、引き続きお二人以外には見えないようにしておきますね」


 八幡ちゃんが嬉しそうにスキップしながら、昇降口に向かって行った。

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