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第二十八話 秋月隊長

 旧校舎の取り壊しが始まるという知らせは、朝のホームルームの中で手短に伝えられた。


「来週から業者が入るから、近づかないように」


 徐々に解体工事を進めていき、冬休み中に完全に更地にするのだという。



◇◇◇



「……どうしましょうか、隊長」

「誰だよ隊長って」

「秋月隊長!」


 私達しかいない自習室で、早速相談を持ちかける。


「廃墟に入れなくなっちゃうよ」

「そうだな」


 秋月くんはノートの上にシャーペンを置いて、窓の外に目を向けた。視線の先には、黒ずんだ外壁を晒す旧校舎があった。私達が日々時間錠作りに勤しんでいる科学準備室(秘密基地)は、あの建物の一階にあるのだ。


「さっき見たら、もうきっちり施錠してあった。どこからも入れなさそうだ」

「……これからはどこで、時間錠を作る?」


 あの科学準備室は、かなり都合が良かったのだ。日中ならカーテンを閉めて電気をつけなくても作業には支障がなかったし、水道も近くにあって、器具を広げるスペースも十分だった。何より人目につかない。


「公園なんて絶対無理だし、カラオケの個室も監視カメラがあるから無理だろうし……」

(八幡神社の本殿も、狭すぎて難しいですねえ)


 窓際にとまった一羽の(すずめ)が、チュンと鳴いた。八幡ちゃんは雀姿でテレパシーを飛ばしている。


「うちの市の図書館、グループ学習室を予約制で借りられるんだけどね。そこもなぁ……ガラス張りで廊下から丸見えだし、この時期予約も激戦なんだよ」

(器具を広げることが可能で、人目につかない場所……条件はたったこれだけなのに、ないものですね)

「八幡ちゃん、自分のUFOって持ってないの? そこで作るとかは?」

(残念ながらボクは持ってません。地球に骨を埋めてもいいかと思ってますし)

「そうなの⁉」

(気が変わったら、他のエイリアンの船に相乗りさせてもらえば、仲間と合流することも出来ますしね)

「そんなこともできるんだ。へえ。異星人同士って、連携とれるんだねえ」

(結構仲良くやってるものですよ。しかしちょうどいい場所というのは、なかなか思いつかないものですねえ)

「困ったねえ」

(困りましたねえ)


 私と八幡ちゃんが、ああでもないこうでもないチュンチュンと首を捻っている横で、秋月くんは沈黙していた。何をしているのかと見れば、彼はノートに数式を書き連ねている。問題集を解いているようだった。


「隊長!」

「……ちょっと待て。今キリのいいとこまで解けるから」


 カリカリと高速でシャーペンを走らせる音が聞こえてくる。小気味良い音だった。

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