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第十七話 時の農場

「地球は多くの異星人にとって、時の農場なんですよ」


 オレンジジュースを美味しそうにすすりながら、八幡ちゃんの話は続いている。


「地球人はいとも簡単に、時間球をボロボロ排出してくれますからねえ。特に産業革命が起こってからですよ。あの頃から収穫量が格段に上がりました。僕たちパカパカ星人は、イギリスでの産業革命以降、二回目の世界大戦までの間に地球での目標量を収穫できました。ちょうど地球生活にも飽きてきた頃です。世界各地で情勢が不安定になってきたこともあって、仲間たちはこの惑星を去ることにしたんです」


 入室してから、誰もマイクを手にとっていなかった。私はここがカラオケ店であることを忘れかけては、聞き覚えのあるアップビートの流行歌のBGMを聞いて思い出すことを繰り返した。


「さっきお前は、『搾取』と言っていたな。それはどういうことだ。地球人の時間を加速させるのは、ただの時代の流れや社会の発展によるものじゃないのか? 『搾取される』って言い方は、まるで誰かが人類の時間の加速を仕組んでいるみたいに聞こえるんだが」

「ああ、それはですね」


 秋月くんの低音の質問にも、八幡ちゃんはにこやかな表情を崩さず軽い調子で答えた。


「おっしゃるとおり、仕組んでいるエイリアンがいるんですよ。故意に人類の時間を加速させて、排出させる時間球を増やす目的で」

「そんなことができるの?」

「出来ますよ。ボク達パカパカ星人は、そういうことはしない主義ですけどね。別の種の奴らは、積極的に人類の支配層の中に紛れ込んだりして、上手いこと地球社会を動かしたりしてますよ。やりすぎは良くないと思いますけど」


 まるでSF映画のシナリオだ。だけどフィクションじゃないんだろうな。私のすぐ横には、美味しそうにポテトを食べるエイリアンが座っているし。 


「ほら、ボクみたいに地球人に外見も喋り方もそっくりにできる種は多いって、さっきも言ったでしょう? 擬態っていうんですけどね」


 八幡ちゃんは、フフと笑った。


「どの時代、どの国にも、異星人は紛れています。博愛的な種もいれば、支配するのが好きな種もいる。いずれの種にとっても、効率良く時間球を収穫できる地球は、理想的な“時の農場”です。だから破壊しないように、エイリアン同士暗黙の了解でちょうど良い塩梅で採集してきたんですけど…………最近は、どうも加速しすぎています。どうやら地球人たちは、仕組まれた加速に乗った上に、自分たちでも加速させ続けて、止めることができなくなってしまったようです」


 アップテンポの流行歌は、いつの間にか終わっていた。ラジオパーソナリティーの曲紹介の後で始まった次の曲も、イントロなしに頭からサビが始まった。


「……上がりすぎた速度がこのまま止まらなくなったら、皆どうなっちゃうの?」


 恐ろしい未来が待っている予感がしたが、具体的なイメージはわかない。恐る恐る質問した私への八幡ちゃんの回答は、とても期待外れなものだった。


「わかりません。だからボクも、見届けたいと思ったんですから」

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