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第十三話 ニコニコトコトコくるくるぽよぽよ

「それ持ってくの?」


 校門へと向かって歩く秋月くんは、片手にしっかりとボストンバッグの持ち手を握っている。


「いつも持ち歩いてる」

「警察に届けなくていいの?」

「正気か? パカパカ星人の落とし物ですって?」


 それもそうか。しかし怪しいなぁ。黒革の古びたボストンバッグを持ち歩く、ハードモヒカンの男。今まで一度も職質されなかったなんて、相当運が良かったんじゃないのか。


「あ、秋月くん。あそこ」


 私は校門の片隅に目を止め、モヒカンを呼び止めた。


「時間球が落ちてる」


 ぼんやり光るので、暗い場所ではすぐに目に入る。昨日までは目に止まらなかったのだが。今朝一粒身体に吸収したからだろうか?


「俺には見えねえ」

「ピンセットと回収袋貸して」


 しゃがんだついでに周囲を探してみるが、落ちているのはこのひと粒だけのようだった。


「……悠里(ゆうり)はなんで裸眼で見えるんだろうな」


 心からの疑問なのだろう。不思議そうに呟いた彼の声は、低くて少しだけかすれていた。


「人一倍要領が悪く生まれちゃったから、神様がこれで補わせようとしてくれたんじゃない?」


 あれ? スベったかな。ジョークのつもりで言ったのに、秋月くん難しい顔してる。やだな。笑ってほしかっただけなのに。



◇◇◇



 私が次の言葉を出そうとした直前だった。


 誰かの声が、私たち二人の耳に飛び込んできた。結構大きな声。そしてとても聞き取りやすい、耳に優しい可愛い音――――それは子供の声だった。


「違いますよ! やだなあ、神様? 神がそんな気を回すわけ、ないじゃないですか」


 ケタケタ笑う声は高くて、鈴を転がしているみたいだった。


「アブダクションですよ、アブダクション! お姉さんはアブダクションされて身体をちょいちょいってされたから、見える体質になっただけです」


 私はまず()()を見て、そして秋月くんを見た。彼の顔から、驚愕以外の感情がすっぽり抜け落ちていた。あ、これ秋月くんのイタズラとかじゃないんだな。


「あぶ……? あぶだく……? あぶだかたぶら……?」

「あ・ぶ・だ・く・しょ・ん!」


 口をパクパクさせる私に被せて修正しながら、ソレ(ではない、彼か?)はニコニコと親しみに満ちた笑みを顔に広げていた。

そしてトコトコと私たちに歩み寄ってくる。くるくるの癖っ毛が、一歩進む度にぽよぽよと揺れている。


「何者だ、お前」


 彼と私の間に立った秋月くんは、彼に合わせて腰を屈めた。

 そう、彼はとても低身長だったのだ。


「ああ。申し遅れました。ボク、八幡(はちまん)っていいます!」


 次の一言を聞いた私と秋月くんは、同時に息を飲んだに違いない。


「お兄さんの持ってるそのカバンの、持ち主ですっ!」


 一音一音を、やけに全力で嬉しそうに発する。

 キャラクター物のTシャツに、小さなオーバーオール。くるくる頭の下にある顔は、その辺の可愛い幼児にしか見えない。しかしその小さな口から飛び出る言葉は、私と秋月くんの呼吸を浅くするのに、十分な威力を持っていた。


「パカパカ星人ですっ! よろしくどーぞ!」

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