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第十二話 なし崩し

 結局その日、私は一時間目の授業しか受けなかった。それ以降の時間は、放課後までずっと旧校舎で過ごしたのだ!


「どうしよう……全部サボっちゃった……」


 すっかり日が暮れてから外に出て、私は項垂れた。


「別にどうもしねえだろ。気にすんな」


 モヒカン頭がドアノブに鎖をぐるぐるまきつけて、壊れた南京錠を壊れていないように見える角度に調整している。


「その様子じゃ、サボり初体験? 真面目ちゃんだな。へーきへーき。誰も気にしないって。気にしそうなダチにだけ適当な言い訳しとけ」

「秋月くんは常習犯っぽいよね」

「俺は要領よくやってるだけだ。必要最低限の授業に、必要最低限の出席数しか出ないね」

「要領か……」


 良さそうだもんなあ、この人。数時間一緒に過ごして分かったけど、秋月くんは地頭がとても良いのだろう。無駄な動きがない。一度聞いたこと、読んだことをすぐに理解できる。もちろん一度に複数のことも器用にこなすのだろう。私とは大違いだ。


「はあ」


 思わず大きなため息が出た。無意識だったが、南京錠から視線を上げた秋月くんは怪訝な顔を向けた。


「何だよ。そんなに授業サボったことが心配なのか。そんなに単位ヤバいの? サボったことないのに? お前さては相当バ……」

「違うよっ! さすがに単位ピンチではないし」

「……仕方ねえな。今日は若干強引に付き合わせた気もするから、埋め合わせしてやるよ」

「え?」

「数学と物理、教えてやる。お前隣のクラスなら、理系科目のほうが弱いんだろ」

「え? え?」

「一週間の空きコマ教えろ。バイトしてんのか? 自由になる時間合わせるぞ。時間球集めも二人の方が効率良いしな」

「え、ちょっと」

「連絡先は? 俺のこれだから」

「あ、ハイ。え。秋月くん」

「腹減ったな。飯いこーぜ、悠里(ゆうり)

「え……? 飯? あれ? 名前呼び捨て?」


 ……もういいや。今あれこれ考えるのはやめよう。確かにお腹はペコペコだ。家まで持たなそう。お母さんに夕飯いらないって連絡しよう。


 私達は旧校舎を後にした。辺りには人の姿はすっかりなくなっていた。

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