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第百十話 ルール違反

「判決はヨネ様が下します。その前に評決が必要だ。それを秋月くんと悠里さんを含めた我々で評議したいのです」


 和田さんは淡々と述べた。


「判決と評決……裁判ですか? フサ子さんの?」

「ええ。フサ子は騙されたとはいえ、重大なルール違反を犯しました。裁かなければなりません」

「ルール違反……?」

「我々レプレプ穏健派の中でのルールです。地球人に危害を加えた。殺意を向けた。これは我々の中での禁忌です。地球原住民である貴方方に意図的な危害を与えることは、レプレプの過去の過ちを再び繰り返すことへと繋がる行為ですから」


 いくつもの移住先の惑星を破壊してきた、レプレプ星人達の愚かな過去。それを語った時のヨネ子ちゃんと和田さんの表情が重なった。


「でも、フサ子さんは知らなかったんですよね? ヨネ子ちゃんが本当はマイム・マイム会合に参加していたこと……フサ子さんはヨネ子ちゃんを助けたい一心で、仕方なく……」


 私と秋月くんに処刑の説明をしたフサ子さんを思い出す。空虚な瞳を揺らすことはなかった。しかし必死で感情を抑え込んだかのような歪みが、あの時の彼女の顔には浮かんでいたはずだ。月明かりしかなかったけれど、ちゃんと覚えている。


「脅された時点で、自ら精査するべきでした。偽りの情報なのか、真実なのかを。それすらしなかったのは、フサ子の行動力と判断力の欠如、そして心の弱さが原因です」

「でも……でもフサ子さんはまだ地球に来て間もなくて、若いし、とんだ未熟者で、ペーペーのペーペーで青二才だから……!」


「言ってくれるじゃないの」


 振り返るとそこに、ブロンド美女がいた。胸を張って堂々と仁王立ちしているものの、彼女の両腕には物々しい手錠がはめられている。そして手錠から繋がった鎖を持つのは、緩く微笑む青鬼姿の幼女――ヨネ子ちゃんだった。


「フサ子さん」

「……元気そうね」

「フサ子」

「……」


 秋月くんがため息をつきながら、フサ子さんの前まで近づいて行った。


「俺の腕をゆるく巻いたのは、敢えてだな?」

「……」

「悠里の口を塞がなかったのも」

「……」

「どこまで見越していた? 過激派の指示に従った上で、俺と悠里が助かる道筋を作ったんだろう?」

「見越してなんかなかったわ」


 フン、とフサ子さんは唇の片側を上げた。彼女がよくする仕草だった。


「このまま評議に入りましょうか」


 和田さんが言った。


「ヨネ様、よろしいですか?」


 カラフルモヒカンの一人が、ヨネ子ちゃんに問いかける。


「そうしましょう。経緯を知るマイム・マイム会合参加者達も、この場に呼んでいます。一馬さん、悠里さん、お時間取らせてごめんなさい。どうかお付き合いお願いします。八幡さんとジョージさんも、よろしければ共に評議に参加してくださると嬉しいのですが」


 青いタイツと青いタートルネック。その上から、手編みニットの虎柄風ワンピース。なるほど、八幡ちゃんの鬼のパンツとおそろいだ。ヨネ子ちゃんの頬には、大きな青い渦巻きがぐるりと描かれていた。


「ボクは構いませんよ」

「んー、まぁいいけど……そうだ、皆で料理つまみながら話し合うってどう? せっかく温め直してもらったしさ、美味しいうちに食べないと勿体ないよ。レプレプさんもイカタコ亭の料理は好きでしょ?」


 パカパカ星人とプルプル星人は、漂い始めた緊張感とは無関係を貫いている。和田さんが生やしてくれた大きなテーブルの上に、せっせと料理を配置し始めた。


 そうこうしている間に、大勢の小さな子供達がわらわらと入室してきた。ある者はモフモフな動物の着ぐるみを着て、ある者は子供に人気のヒーローやプリンセスの格好をしている。楽しそうな仮装姿である。彼らはエイリアンで、皆マイム・マイム会合の参加者達なのだろう。


「皆さん席につきましたね」


 割り箸をパチンと二つに割りながら、ヨネ子ちゃんが頷く。まるでこれから「いただきます」と言いそうな流れだが、小さな幼女の口が出たのは、愛らしい姿に似つかわしくない堅い言葉だった。


「フサ子は有罪か、無罪か。有罪であればどの程度の処罰が妥当か話し合いましょう。評議を始めます」

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