第百五話 三人のモヒカン
部屋に入ってすぐに目に入ったのは、やはり白。私が先程いた場所と同じ空間が広がっていた。しかしその部屋はもう少し広いようで、そこには、複数の人の姿があった。
「悠里ちゃん!」
「八幡ちゃん!」
私達はほぼ同時にお互いを認識して、ほぼ同時に名前を呼んで駆け寄った。
「目が覚めるの、早かったですね。元気そう。良かったあ」
八幡ちゃんは子鬼の姿だった。彼が手編みしたと言っていた鬼のパンツはサイズピッタリ。ぽよぽよの髪の間から、ちょこんと小さなツノが生えている。
「悠里ちゃんの方がダメージが大きいみたいだったので、レプレプ医療チームにも深く眠れるようにお願いしておいたんですよ」
「レプレプ医療チーム……」
「和田さん達のことですよ」
両頬に赤い渦巻きを描いたパカパカ星人の言葉に、和田茂吉さんが頷いていた。
「秋月くんは?」
今のこの状況も、ここに至る経緯もよく分からない。しかし私は八幡ちゃんに短く目的だけ告げると、彼の手を握ったまま白い空間の中をキョロキョロと見回した。
「秋月くん!」
その人がいると思われる場所は、一秒もかからずに見つけられた。真っ白な空間の中、その場所だけが切り取られたように華やかだったからだ。
先ほど私が目覚めたのと同じ白いベッド。その周囲には、三人のモヒカンがいた。全員がビビッドカラーのハードモヒカンで、全員が和田さんと同じ白衣姿。そしてこちらを向いた顔は、もれなくアウトロー感たっぷりの強面だった。
「秋月くん‼」
迫力満載のモヒカン三人の間に、割って入った。普段だったら絶対に怖くてできない。ジョージくんの言う通り、鮮やかすぎる色彩のハードモヒカンは、視覚への暴力とも言えるだろう。でも今はそんなことどうでも良かった。
「秋月くん! 秋月くん!」
すっかり乾いたスウェット姿の秋月くんは、ぴったりと瞼を閉じていた。激しく揺さぶっても、大きく名前を呼んでも反応なしだ。しかし胸が上下しているので、呼吸はしているのだろう。
「ちょっとキツめに麻酔かけたので、まだ目覚めませんよ」
頭上から声がした。白衣モヒカンの一人が発したものだった。
「麻酔?」
「秋月くんはね、発見時の意識もしっかりしてました。経緯説明も分かりやすく、平常心もしっかり保っていた。しかしねぇ、あなたを別の医務室へ運ぼうとしたところ、暴れ出しまして」
別の白衣モヒカンが肩を竦めて見せる。
「あなたと引き離されるのは断固拒否って感じでした。こちらも説明はしたのですがね。レプレプへの信用はゼロのようです……仕方ないですけど」
「けれどああも暴れられては治療もままならないので、申し訳ないけれど強制的に眠ってもらったと言うわけです。人体には無害なので、そこはご安心を」
「彼が眠ってすぐに、八幡さんとヨネ様がいらしたのです。御二方ともう少し早く対面できていたら、もっと穏便に済んだかも知れませんね」
三人のモヒカンが、代わる代わる説明をした。




