表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/119

第百二話 ごっつんこ

 いい匂い。


 なんだこれは?

 何の匂いだろう。お腹が空いてくる系の、美味しい匂い。


 あぁ、分かった!

 お出汁の香り。

 昆布出汁かな?

 かつおだしかな?

 それとも煮干し?


 それだけじゃないなぁ。複数の旨味が凝縮したような、とっておきの老舗の味って感じ。そこにお砂糖と、お醤油と……みりんも少し。


 つい最近、本当に最近、こんな香りを嗅いだ気がする。ふんわり包みこまれるような、優しくて懐かしい、幾重にも時間を積み重ねた場所を感じさせる、そんな香り。


 そうそう、イカタコ亭だ。つい最近っていうか、直近のお昼ご飯で食べたばかりじゃないか。通りで嗅覚の記憶が新鮮なわけだ。


……あ、ソースの香りもする。お好み焼き? たこ焼きかな。秋月くんが食べてたお好み焼きも、美味しそうだったなぁ。次イカタコ亭に行ったら、絶対お好み焼きにしようと思ったんだ。


 たこ焼きのテイクアウトもしてみたい……そうだ! 天体観測に出かける前に、イカタコ亭でたこ焼きを買っていかないか提案してみよう。八幡ちゃんもジョージくんも、速攻「いいね」って言ってくれそう。


 天体観測。夜のドライブ。楽しみだなぁ……思い切り楽しむためにも、試験……がんばろうっと。



…………ん…………?



 試験…………?

……試験、試験、試験…………試験。


 あああ! そうだよ! 試験! 今日試験じゃん!



「試験ッ‼」


 ガバっと起き上がって初めて、私は身体を横たえていたのかと気づいた。そして同時に、ガツン! と額に強い衝撃が走る。視界に星が散って、間髪入れずに鈍痛が襲ってきた。


「いったあっ!」

「いってえ‼」


 私の声と同時に、悶え叫ぶ声が聞こえた。眼の前には、額を抑えて唸っている誰かがいた…………え、誰?


 勢いよく上体を起こしたものだから、眼の前にいたその人と額同士を強打したのだ。そして私と痛み分けして、こちらを涙目で見ているのは――――


「モヒカン!」


 なんとまあ。ライムグリーンとショッキングピンクに前後半分ずつ色分けされた、派手派手のモヒカン頭の男だった。秋月くんじゃないモヒカンを、初めて見たかもしれない。


「良いモヒカンですね」


 ジンジンする額を撫でながら、思わず褒めていた。


「……その様子なら、大丈夫そうですね……うん。意識レベル問題なし、と。念の為聞くけど、たった今私と()()()()()したおでこ以外に、不快なところはありますか?」


 彼のほうも額をなでなでしながら、私に質問してくる。


 不快なところ? いや、特にないかなぁ。首を振ると、「そうですか」とモヒカン男は表情を緩めた。


「寒くないですか?」

「いや、全然」

「手足は問題なく動きます?」

「はい」


 男の指示通りに手を握ったり閉じたり、膝の曲げ伸ばしをしている間に、私は周囲を見渡した。寝起きの感覚はなかったし、おでこはめちゃくちゃ痛かった。だけど、まだ夢を見ているのだろうかと疑った。


――だってここは、一体どこ?


 全然知らない場所である。壁も床も天井も、境目がわからないほど真っ白な空間。私が上体を起こしているのは、これまた真っ白なベッドの上だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ