孵る悪夢
自宅に戻った俺は後悔していた。空を飛ぶってことは衛星に捉えられるってことじゃん…テンション上がって飛んじゃったけど”ソレっぽい組織”に目を付けられるのも時間の問題になってしまった…
空を飛ぶのにも使える第一の能力『空気を操る』力は、大気中の酸素濃度を下げるか、二酸化炭素濃度を上げて人類を滅ぼせ、って意味なんだろうな。
しかしすぐに気分を切り替えた。第二の能力『変態』を試したくてうずうずしているのだ。
鏡の前に立ち、まずは顔を変えてみる。キムタクを念じてみたらキムタクになった。まじか。
次に体型だ。子供をイメージしてみた。縮んだ。まじか。
最後に性別だ。フラれた彼女をイメージしてみた。彼女になった。まじか。
念のため包丁をイメージしてみた。右手が包丁になった。まじか。
まだまだ検証の余地はあるが、人間であればイメージした人物になれるようだ。無機物にもなれるらしい。
それを理解するのと同時に変態の真の力の使い方が脳内に湧き出た。
海馬を捕食すればDNA情報までその人物に変態できる。
要は、人間の脳味噌を丸かじりすれば誰にでもなれるってことか…。
しかしこの能力があれば、指紋認識、網膜認識、声紋認識、すべてクリアできる。
この力でツガイを助け出せ、ってことだな。
最後に第三の能力《不完全体》を試してみる。
念じると右手の人差し指からプラナリアが生えてきた。そのまま指を離れテーブルの上をくねくねしている。
俺が飲み込んだ地球外知的生命体…そうだな、長いし変態もできるし《カメレオン》と呼ぶとしよう。
地球外知的生命体と大きく異なるのは、頭部から小尾に向かって二重螺旋構造になっているという点だ。DNAのような見た目だ。
《不完全体》というだけあって、一つ目の能力の空気を操る力は持ち合わせていないようだ。
俺の好奇心はまだ止まることを知らなかった。
《不完全体》を誰かで試したい…
そこでTwitterで投稿してみた。
「誰かに変身したい人、1万円@1人」
1分そこらでリプが来た。そこからはDMでのやりとりだ。
詳しく話を聞くと、どうやら好きな男性が結婚してしまい、その結婚相手に変身して生活したいのだという。
話がシンプルでわかりやすかったので、実験第一号はこいつに決めた。
それから何回かDMでやりとりをして、ハチ公前で待ち合わせ、取引成立。
「飲み込むのキモいだろうけど、飲み込めば何ができるかすぐ理解できるから。じゃ」