バビロン 悪意の手④
鬼神の面が話し始める。
「カフカの『変身』で人間から毒虫になったグレゴール・ザムザは、毒虫として羽化をむかえる前に父親に殺された」
「何の話をしている」
と割って入った人物が空気圧によって圧死する。
鬼神の面は続ける。
「毒虫になったザムザは妹に、嫌われ、母の心を傷つけた。
彼も羽化さえしていれば、私と同じ光景を目にできたでしょう。
それらの行為がすべて取るに足らない行為であったと理解できたでしょう。
私は羽化した。そして、望む人々を毒虫に”変身”させてきた」
静まり返る室内で鬼神の面が一息ついたあと、続ける。
「既に想定済みかと思いますが、来る2月3日、国葬で毒虫たちは羽化します」
「彼らの障害に成り得るものはできる限り排除しておこうと思い、お邪魔した次第です」
「我々を殺すのか」と誰かが言う。
「いいえ」
「あなたたちも、毒虫になるのです」
そう告げると、鬼神の面は不完全体をパーカー以外の全員に投与した。
「これでご理解いただけと思いますが、パーカーくんは残念ながらこの場にいないようですね」
動かないパーカー。
またしても彼はアンドロイドの姿でこの場にいたのだ。
しかし幸運なことに、それが理由で不完全体の投与からは免れたのだった。
だが電波暗室となったことで、外にいるパーカーは中での出来事を知ることもできなかった。
そして真純の能力を明かしたくない一の考えにより、その場にいたパーカーに手は出さなかった。
「彼によろしくお伝えください。
制約に縛られた皆さんを見れば、彼の推理力で何が起きてるか理解できるでしょう」
仮面の下で一がにやけながら言う。
「それでは、みなさんご機嫌よう」
二人は去っていった。




