蠢動⑦
「ただいま〜〜…」
22時過ぎ、一は疲れた声で帰宅を告げた。
>「おかえりなさい!」
元気な声ととびきりの笑顔で真純が迎える。
>「今日1日で全部やったの?」
「そうだよー…さすがに不死の体といえど、あちこちに移動ばっかりだったから精神的に疲れたよ」
>「すごいね!さっすが、はじめくん!」
パチパチと真純が拍手する。
「ありがとう、真純一人の拍手で十分元気になるよ」
2023年1月1日に増やした不完全体は931体。
衆参両院の議員数は702人なので、官僚やその他要人の数も加味してもノルマは達成した。
>「それにしても、はじめくん、正月早々目立ちまくってるよ。ほらテレビ見て」
ちょうどニュースを流していたテレビを真純が指差す。
「本日、日本各地で『空を飛ぶ人を見た』という目撃情報が相次いでおります。
こちらは東京タワーに設置された展望用カメラの映像です。
高速で詳細は確認できませんが、明らかに人型の飛行体が横切るところを捉えています」
テレビで自身の映像が流れる。
「マスコミって仕事早いんだなー…」
肩肘をついたまま呟く一。
>「意外と平気なんだね」
「ここまでは予想範囲内だからね。
準備も9割済んだ」
「最後のピースは真純にお願いしたい。いいかな?」
>「うん!私にできることならなんでも言って!力になるよ」
そう言うと一は、指先からうにょうにょと動く生物を生み出した。
ソレは今までの不完全体とは違い、体が二重螺旋構造になっておらず、地球外知的生命体の見た目にそっくりだった。
「名付けで完全体。俺たち地球外知的生命体のrNA情報に出来る限り近づけた生き物。
不完全体と違うのは、これを取り込めば真純の失われた力を取り戻せるってところかな」
>「完全体…はじめくんはすごいね」
>「私の第一の能力は電子を操ること。早速取り込んでもいい?」
「うん」
真純は完全体を飲み込んだ。
>「すごい!力が溢れてくる!試していい!?」
珍しく真純が興奮している。
「いいよ」
>「じゃーまずは一発目!」
真純は右手でコンセントに触れ、左手を前に突き出した。
すると電気の帯が浮かび上がった。
>「やったー!できた!」
>「大規模な電力があれば電磁砲も打てるよ!」
>「じゃー二発目!」
>「はじめくん、ちょっとパソコン借りるね」
真純がパソコンの側面に両手を添えると、パソコンが勝手に動き出した。
すると一の立てたスレッドで834番目のレスが前面に出てきた。
>「この人のアクセス元、はじめくんが気にしてる『バビロン』って組織みたいだよ。
すごい。予想以上だ。
何よりもこの情報化社会でインターネットの海を自由に泳げると云うのは、神と呼べるレベルだ。
「ありがとう!真純!」
ギュッと少し強めに真純を抱きしめる。
>「へへ…」
真純は照れ笑いした。
834番目がバビロンの人間だとしたら、制約の効果でもう死んでるな。
作戦に問題はない。
「それで、2月3日に真純に頼みたいことなんだけどー」
>「オッケー大丈夫!さっき完全体を取り込んだときに作戦も頭の中に入ってきたよ!」
準備は整った。




