終わりのはじまり①
9月6日、まだジリジリとした太陽の照りつけの下、俺は先日死んだ祖父の家の後片付けをしに東京から長野県に来ていた。本来、こういったことは祖父の息子である父たちの仕事なのだろうが、財産分配までの間に『とんでも!鑑定団』に出せそうな掘り出し物を探して来い、とのことだった。
自己紹介が遅れたね。俺は【田中 一】、24歳のニート。大学新卒で入社した会社がブラック企業で転職したもののの、転職先もブラック企業ですぐ退職。社会から弾き出されたよくいる若者だ。25歳で切れる「第二新卒」という魔法のカードが切れるまでは好きなことをやろうと思っているのだが…趣味がない。というわけで、祖父の遺品を漁っているわけだ。
暑い。もう2時間は探索を続けているだろうか。標高の高い長野県といえど、お天道様には抗えない…。俺は一旦休憩することにした。好きなものの一つに音楽がある。好きなアーティストは「ザ・マクラズ」「NUMBER BOY」「SUPERBUS」「ぐるり」等の’90〜’00に流行ったオルタナティブ・ロックだ。夏に似合う。良い。しばらく縁側で横になって音楽を聴くことにした。
…ドサッ。衝撃で目を覚ます。いつの間にか寝転んでしまっていたらしい。夕暮れ時になっている。起き上がろうとした時、床下に不思議な物を発見した。井戸だ。「貞子が出てきたらどうしよう…」と震え上がるが、どうも祖父の書斎の真下にあたる位置にあるらしい。貞子の恐怖に包まれながらも、祖父の書斎に入りカーペットをめくると、取手付きの床ーいや、扉と呼ぶのが正しいのだろうか。
恐る恐る扉を開けると大方予想通り、それはそこにあった。不思議なことに井戸の中に水気は全くない。ハシゴがかかっており、下まで降りられそうだ。ここまで来ると恐怖心より好奇心が勝ってきた。スマホのライトで下を照らすと、ギリギリ地面が見える位の高さだ。ハシゴを使って降りないと捻挫か骨折はしそうな高さだったので、梯子に足をかけゆっくりと降りていくことにした。
「バキッ!」鈍い音が鳴り、背中から地面に落っこちる。ハシゴが腐っていてちょうど真ん中あたりの高さから落ちたらしい。背中、痛い…。
「スマホッ!?」自分の命の次に心配するものがスマホとは、現代っ子であったわけだ。幸い液晶にヒビや傷は付かなかった。良かった。画面の無事を確認するためにスマホを構えた時、井戸の横穴に不思議なものを発見した。