09.第二王女の試練Ⅲ
それから母上と共に、様々な社交の場についていった。
お茶会もあれば、舞踏会もあり、様々な場所で、様々な人々との交流があった。
その一つ一つに学びがあった。
舞踏会では、どこの国がどのような装いで来るか、会話の内容から感じ取れる状況、流行のドレスかどうか一つでも情報網がどれだけあるかなど、まさに目から鱗であった。
「母上、このような事も何年も?」
「そうよ~。愛するアレクの為に私が戦える場所で、出来ることをしてきたのよ~」
母上はこんなことは何でもないといった風に言うが、とんでもない。
剣一筋で生きてきた私にとって、考えられないような生き方だった。
「でもね。アンジュちゃん。私は剣をとることはできなかったわ。その力が無いから。だからアンジュちゃんが剣を取ることが出来たことは、それはそれで凄い事なのよ~。誰もが一兵卒だったら軍隊は動かないわ。参謀が居て、将軍が居て、初めて軍隊として成り立つのよ。適材適所ね。」
今までは軍隊で、訓練をして、力をつけて、将軍になるぞとひたむきに努力してきたが、戦う方法はそれだけでないと、改めて教えられた気分だった。
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「これが武力を用いない外交か…」
私が舞踏会の最中、壁の花となり、一人思考を巡らしていたとき。私の頭上に影ができた。
「このような舞踏会で、可憐な花が壁に飾られているのは勿体ない。私と一曲いかがでしょうか?」
気障なセリフと共に私に話しかけてきた。
顔をあげると、吸い込まれるような蒼い瞳に短髪、褐色の肌の青年がいた。
「これはありがたいお申出。ですが、私は少し疲れておりまして、休ませて頂いているところですの。別の方を当たっていただければ。」
何度も社交に出てきたから分かるが、私はやはり可愛くはないということだ。
身長もそうだが、きつめの顔つきや筋肉質な体形など、世の男性にちやほやされている女性像とは対極にいるという事実。
いくら私が王女といっても、そんな女性に話しかけてくる男性も曲者が多いということだ。
私はこれであしらえたと思い、テラスの方に向かったが、その青年もついてきた。
「まだ何か御用でしょうか?」
「いえ、私も丁度休憩したいと思っていたところですよ」
そらみろ、胡散臭い事この上ない言い訳だ。
青年は続ける
「それで、こちらの可憐な花のお名前をお伺いしても?」
「名乗るならば自分からが礼儀では?」
母上からも礼儀の無い者にはしっかりと反抗しろ、そいつの名前は死んでも忘れるなと指導頂いている。
「これは失礼致しました。西の海を渡った先にありますフィレンツ公国の第一王子、カイトと申します。」
ゲッという顔をしてしまった。これは母上にまた怒られてしまう。
「そ、それは、公国の第一王子にご挨拶頂きまして、光栄でございます。私は、第二王女のアンジェリカと申します。」
カーテシーで頭を下げながらも、背中から冷や汗が止まらない。
その理由は、かの公国は海上を思うがままにしており、海上輸送などの覇権を握っている。
逆らえば海上の輸出入がストップすることも容易だ。
「そうかしこまらずに、私は、あなたに求婚をしたくお声かけしたんですよ」
「えっ!」
また、母上に怒られるよう顔をしてしまった。
「噂はかねがね伺っておりまして、男にも勝るとも劣らない武勇をお持ちで、その姿は可憐な百合のようだとね。最近はよく他国との社交場にいらっしゃってると伺い、一縷の望みをかけてここに来ました。どうか私にあなたと踊る栄誉を下さいませんか」