08.第二王女の試練Ⅱ
私と母上がガゼホに足を踏み入れた先には、既に侯爵夫人が待っていた。
「あら、王国の流儀では、客を待たせるのが礼儀なのかしら。」
「いえいえ、帝国の皆さんが落ち着いていただけるように合間を持たせて頂いただけですよ。」
私にはピキッという音が聞こえた気がした。
「それはお気遣い大変にありがとうございます。いつもは王城のガゼホでしたが、違う庭園にご案内されたので、少し時間に余裕を持って移動した限りですわ」
「王城の方は改修工事を行っておりまして、ご不便お掛けして恐縮です。こちらの庭園も帝国の花々とは雰囲気の違った装いですので、今回はこちらにさせて頂きました。」
二人ともに笑顔で会話しているが、会話を聞いていると何故だか背筋が伸びる思いだ。
「こちらの綺麗なご令嬢はどなたかしら?」
「ご紹介させていただきます。こちらは娘のアンジェリカですわ。アンジェリカご挨拶を」
おっと、いよいよ出番のようだ
「ご紹介に預かりました。第二王女のアンジェリカと申します。本日は、同席させて頂きありがとうございます。」
「あら、若くて綺麗ね。第二王女といえば軍務にかかりきりと伺っていましたが?」
隣国まで、私の噂は届いているらしい。
「そんな軍務にかかりきりなわけがないでしょう?公務とのタイミングがなかなか合わなかったのよ」
母上はさらっと事実を覆い隠すような発言をされた。
何故ここで、そのような発言になるのか。私にはまだわからなかった。
「まぁいいですわ。では、お茶会をはじめましょうか」
そこからは怒涛の話題だった。最近流行のドレスや宝飾品、美味しいスイーツや絵画、かっこいい行政官や将軍、はては私の結婚相手?の候補まで、互いにバーっと話しながらも相槌を挟みながら話し続けていた。
数時間後、侯爵夫人のお付きのメイドが「侯爵夫人、そろそろ…」とお声をかけたことで、ようやくお茶会は終了
見送りを終えた後、母上と今日の内容の振り返りを行った。
「さぁ、それではアンジェちゃん。今日の内容を振り返って、何が分かったかしら?」
「え?それは、私は詳しくないが流行のドレスや宝飾品など、目新しいものが多くでてきているということだろうか…」
「ブブ―!アンジェちゃん、ここは戦場よと最初に言ったわよね?指揮官が戦況を読めていなければ戦場はどうなるかしら?」
「混乱し、負ける…か」
「そういうことよ。初めてだから一つ一つ教えてあげるわね…」
そこから母上による解説が始まった。
流行のドレス一つとっても、どこが発祥かどんな材質の物が使われているか。どこの国が多くそのドレスをもっているか。こういったことから情報もどのぐらい入手できる国なのか、また今後の国としての輸出入や力を入れるべき産業なども読めるということ。
またこちらからの情報も侯爵夫人の耳に入るということは、隣国にも必ず伝わるということ。
つまり、あのガゼホは指揮官同士の腹の探り合い、情報戦だっということだ。
私は暢気にお茶を飲みながら、他愛もない会話ばかりだと聞き流していたが、一つも聞き逃してはいけないほど、大事な情報だったということだ。
「何故そんな大事な情報をこんなお茶会などで?」
「隣国同士の緊張感の確認と牽制の為よ。お茶会も開けないような国があれば、その国を中心に近く戦争が起こるぞと察知できるのよ。」
なるほど…外交官が夫妻で来る理由がちゃんとあるということか。
「あと、最後にあなたの結恨候補の話題が出たでしょ?あれはただ単にいい人がいるわよってことじゃなく、ウチと関係を強固にしませんか?というお誘いよ。
まぁスパイの可能性もゼロではないけどもねー」
「はぁ」
「アンジェちゃんはどんな殿方がタイプなのー?相談してくれたら精一杯探しちゃうのになー」
「私はまだそういうのは…」
「えー?」
先ほどまでの緊張感は嘘のような雰囲気に戸惑いながらも、社交という戦場で戦う母上の事を更に尊敬する私であった。