06.第一王子の試練Ⅲ
それからの日々は、怒涛のように過ぎていった。
オスカーとは意見をすり合わせながら、時にはぶつかりあいながら、農村に生きる者のためにと思考を凝らし、改革を進めてきた。
中枢にいたころとは、何もかもが違った。
農村に水路を通すときも
「何故、ここに水路を通すための予算が下りないのだ。」
「こんなド田舎に水路を通しても、王都にとっては旨味がないからですね。こういう場合は、水路を通すのを裏の目的にしながら、王都にも理のある理由を目的にする方が通りますよ。」
王都で用いられている農法を取り入れるときも
「こちらの農法のが収穫高も効率もいいのに、何故この農民どもは取り入れないのだ」
「農民にとっては、命につながる問題ですからおいそれと今までのやり方を変更できないんですね。農法を変えたら、不作でしたじゃ、家族を養っていけないですからね。」
「では、どうすればいいんだ?」
「収穫に余裕のある農家を呼んで、この農法を一部分で試してもらい、その収穫については税を免除するなどの優遇措置が必要かと思います。」
全てが王都にいた時には、感じられないことばかりであった。
もどかしい思いをしたことも多かったが、それ以上に改革が出来たときの達成感。
また、その改革のおかげで、豊かになった農村をみるとまた次も頑張ろうと思えるのであった。
「オスカー、私はここにきて良かった。王都では、分からない、学べないことばかりだ。」
「殿下、その全てを糧とする姿勢に私自身も学ばせて頂きました。更に言えば、周りの農民の方々の顔を見てください。」
そこには、エドワードの肩を叩きながら満面の笑みを浮かべる農民たちがいた。
「殿下、またやりましたなぁ!」「これで、また村が豊かになりますわ」
「わたしゃやる男だと最初からわかってたよ」「りんご一杯収穫できたの!ありがと!」
「そろそろ殿下にいい人紹介せんとな…」「ばか!こんな村で見つかるわきゃねーだろ!」
それはこれまでの改革の中で、誠実に仕事に向き合い、人に向き合い、試行錯誤しながら築き上げてきた農民との信頼という絆の象徴だった。
そこには、生まれや立場、肩書や実力に左右されず、数字や結果だけではなく、人を人と見れる第一王子の姿があった。