05.第一王子の試練Ⅱ
翌日、やることも無いからと資料を読み漁っているところで、館を訪ねる者があった。
「すみませーん。行政官のオスカーです。開けてくださーい。仕事しに来ましたー!」
どうやら領官と共に働いていた行政官のようである。領官が変わったことは、知らされていないようだ。
館の玄関を開けると、躊躇なく入ってきて、こちらの顔を見ずにさっさと仕事を始めだした。
「おはようございまーす。今日もよろしくお願い致します。まずは、インフラ整備について、資料をまとめますので、少々お待ちください。」
「待て待て。お前は誰だ。昨日から領官が変わっていることは通達されていないのか?」
そう言われ資料からようやく顔を上げた彼は、ハッとした表情をした。
私の顔に何かついているのだろうか?
「こ、これはエドワード殿下!!なぜこんなド田舎の領館にっ!!」
「陛下からの通達で、この地方の領官として、農業改革やインフラの整備などを頼まれたのだ。
そういえば貴様は、何故こんな田舎で、私の顔を知っている?農民など誰も余の顔など知らんかったぞ?」
「そ、それは…」
オスカーという行政官は、ぽつぽつと話し始めた。
私が幼少期の頃、城下町に視察に来た際に、スラム出身だった彼は妹の食糧を確保するために、店から盗みをしていたところ見つかった少年だという。その時に私の顔と名前を覚えたのだという。
その時、私は理由を聞き、釈放しつつも、スラムというものを初めて知ったがゆえに、陛下にスラムの改善を申し出たことをよく覚えていた。
その一件から彼は、心を入れ替えて、王が力を入れていた平民の奨学制度に応募し、学問を収め、自分のような人を一人でも救うべく地方行政官として働いているようだった。
「殿下がスラムの改善や陛下が推進してくれた奨学制度が無ければ、自分はこんなところで働けなかったですよ。その節は本当にありがとうございます。」
「いや、そんなことは…」
当時の私は、スラムの住人など、汚らしく、王都にふさわしくないと思ったがゆえに、陛下に改善を申し上げていた。それを思うと少し胸が痛んだ。
「そうときまれば、今以上にしっかり働かないとですね!これからよろしくお願い致します。」
「あ、あぁ、よろしく頼む」
そこからオスカーとの地方改革の日々が始まった。