夢の未来(さき)へ
二次創作でもなく、ファンタジーでもなく、リアル青春物に初挑戦しました
短距離走に青春をかける2人の甘酸っぱいストーリーを書きました
皆さんに刺さってくれたら嬉しいな
俺は高一の夏の大会で400m走で初めて、全国大会に出場した
結果は惨敗だった
けど一生の思い出になった
HARDな練習により、短期間でのタイムアップに成功しての全国だった訳だが…
無理が祟って脚に一生ものの怪我をし、ランナーとしての生命は終わりを迎えた
そんな俺が2つ年下の女性を個人的に指導している
「私、【芦原 未来】と言います
先輩の走りに憧れていました。良かったら、私のコーチをしてください。お願いします!」
同じ町内に住む陸上部の後輩だった
俺が中学3年の時、同じ学校の1年生で同じ部活に所属していたらしいけど、俺は全国出場しか見据えていなくて…彼女の事を知らないまま中学を卒業していた
彼女はそんな俺を目標として見据えていたらしい
最初は大怪我をする程までの練習して、ギリギリ全国に出れただけの俺程度では…
と断ったのだが、ゴールの先を見据えて走る俺の走りを自分の物にしたいと告げられた
未来は中3になった今年に全国出場を目指したいらしい
脚の負傷で帰宅部と化した俺は、放課後は暇を持て余していた
打ち込める何かを探していた俺には、都合の良い穴埋めが見つかった!
最初はその程度でしか彼女を見ていなかった
「顎が上がってるぞ!もっとチカラ強く手を触れ!手の軌道が外に行かないように意識しろ!」
俺は敢えて、彼女をフォームを磨くのではなく俺の走りを彼女の走りに組み込むトレーニング方針にした
自分の走りしか見てこなかった不器用な俺は、この教え方が俺に出来る最適だと考えたんだ
その方法が彼女に合ったのか?
全国の選考会の大会2ヶ月前になる頃には、彼女は自己ベストを2秒ほど縮め全国5位くらいのタイムに迫って来た
「先輩のご指導のおかげです!
私ここまで来れました、もう一歩、前に行けますよね?」
今日のトレーニングメニューをこなした彼女
まだ外の風はやや肌寒かったが、彼女の吐く息は熱く全身に滲む汗は輝いていた
けれど、彼女の中で1番輝いていたのは目だった
全国出場を見据え、ひたすらに走りに打ち込む迷いの無い目はひときわ輝いていた
未来への指導を更に高いものにする為、週に1度ミーティングの時間を取っていたが、今日はいつもと違う話をしてみた
「今、何か俺に叶えて欲しいものとか、ある?」
今の彼女には、これ以上の技術的な詰め込みは逆に脚を引っ張る。選考会に向けて、後はメンタルを磨くべき!
という判断からだ
走りが良くなりタイムが少しでも縮めば、ご褒美を与え、やる気を釣り上げる作戦だったのだが…
「えっ!?今なんて…」
「で、ですから…今度の日曜日に私とデートしてください!」
予想の斜め上を行く彼女の言葉にしばらく放心してしまった。異性とデートなど、恥ずかしながら未経験だったものですから…
「私みたいな女じゃ…迷惑ですよね?」
「めっ、滅相もございません!俺なんかで良かったら、おちょもさせて頂きますぅ↑」
………噛んでしまったw
ついでに語尾の所で声が裏返ってしまった
彼女はクスクス笑い喜んでくれた
次の日曜日
下はGパンで上はTシャツに半袖のGジャン
ハンカチOK。財布も持った。髪型バッチリ
こ、これで準備万端。待ち合わせ場所に向かった
「やだ!先輩ってば気合い入り過ぎ!」
デートに誘ってきた彼女はスポーツウェアで、待ち合わせ場所に立っていた。…あれ?
「私、スポーツ一筋だったから、デートなんてした事が無くって…先輩となら肩ひじ張らずに楽しめるかな?と思ったんですけど…」
どうやら俺は身構え過ぎたようだ
そんな自分に笑えてきた。大声で笑っていた
彼女も一緒に笑っていた
結局デートなんてのは名ばかりで、スポーツ用品をウィンドゥショッピングして、喫茶店でデザートを楽しむ
友達と過ごす休日と変わり映えはなかった
ただ…その日、初めて気が付いた
笑った未来の顔がものすごく可愛いって事に
ご褒美作戦は成功だった
選考会半月前のタイムは県内3位まで登り詰めた
俺は上機嫌だった
しかし、その日以降、未来の顔から笑顔が消えてしまった
全国出場切符は2枚らしい
1位と2位のタイムは拮抗しているが、未来はあと1秒の差が縮まらず焦りの顔を浮かべている
「先輩…やっぱり…私なんかじゃ届かないのかな?全国出場…」
数日前に出た結論
これ以上のフォーム改造はプラスにならない
ご褒美作戦でメンタルは上を向いていた
ソレでも、どれだけ気合いを入れても残り1秒が遠くて、未来は答えの無い迷路を彷徨っているようだった
選考会の日は無慈悲に近付いて来る
(後は何だ!?何が彼女に足りないんだ?)
俺もどれだけ考えても…答えは出てこなかった…
「気分転換しよう!」
選考会2日前
今度は俺の方から彼女をデートに誘った
楽しんでくれてはいたが、やはり彼女の曇った顔は晴れなかった
1つ策があった。レースゲーム
【ホースガール】
今流行りの擬人化女子がコースを走るアーケードゲームだ
俺は彼女と1時間くらい、そのゲームを楽しんだ
「先輩ありがとうございました
今日、凄く楽しかったですよ」
そうは言っているが、あの日の笑顔がまだ彼女に戻っていない
このまま選考会に出れば…恐らく彼女は負ける…
「先輩、あのゲームの女の子達…何であんな必死になれるんだろうね…何で負けても笑顔でいられるんだろうね…」
その答え自体は簡単だった
「ゲームだからだ」
でも、リアルで走る彼女は負けて夢敗れれば当然悔しいし、笑顔になれないだろう
あとひとつ、何かが足りない
「じゃぁ今日は帰るね…良かったら明後日…応援に来てくれると嬉しい…な…」
彼女の眩しい笑顔は取り戻せなかった
俺は自宅に帰り自室で考えていた
俺はあと、彼女に何が出来るだろう?
ゲームのキャラクターのセリフが脳裏を掠めた
「貴方の応援が、私にチカラをくれるんだよ!」
そうだ!選考会の日、全力で応援しよう!
俺の気持ちで未来にチカラを!
選考会当日
俺は約束通り未来の応援に来た
いよいよ彼女の出番だ
俺は作った垂れ幕を拡げた
【好きだ!走れ、夢の未来へ!】
「さきー!頑張れー!!」
喉も張り裂けよ!と、ばかりに人生で1番の大声を彼女に送った
俺に気付いた未来は顔を真っ赤にしてうつむいた
(やり過ぎたか?)
けれど未来は顔を真っ赤にしながら、俺を見つめて笑った
初めてのデートで俺に魅せてくれた眩しい笑顔だ!
「位置について!……用意…」
彼女は走り出した
【夢の未来へ!】