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悪役令嬢に転生したはずが、主人公よりも溺愛されてるみたいです[web版]  作者: 菜々@5/30『モフモフ旦那様』コミック2巻発売
本編

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80 サラの猫かぶりは自由自在ですね


とうとう祭祀当日。


朝からずっと緊張していて、朝食が全く喉を通らない。

メイド達に促され、なんとかがんばってサラダとヨーグルトだけは食べたが、それだけでお腹いっぱいだ。


昨夜一晩中警護してくれていたらしいカイザは、私が起きてからイクスと警護を交代し、睡眠をとるために部屋から出て行った。



カイザと同室だなんてうるさくて休めないと思ってたけど、意外にも静かに過ごしていたのよね。

しかも一晩中寝ずに警護していたなんて、小説のカイザじゃとても考えられないわ。


リディアとは顔を合わせるたびに喧嘩をしてる、まさに犬猿の仲だったもの。



まぁそんな事よりも……。

部屋の壁に寄り添うように立っているイクスへ声をかけた。



「イクス。今日、頼むわね!!」



イクスには今日の祭祀の間にドグラス子爵邸へ侵入し、監禁されているかもしれないワムルを探し出す!という任務を与えていた。


これが成功するかどうかでコーディアス侯爵家の行く末が変わり、エリックの政略結婚を防ぐ事ができるかもしれない。

それはイコール私の処刑エンドの完全なる消滅!!


絶対に成功してもらわないと!!



メイド達がまだ部屋にいるので、細かい内容までは話せないがそれだけは伝えたかった。



くれぐれも気をつけてね!

侵入してることバレないようにね!

なんとかしてワムルを見つけてきてね!



口には出せないけど、私の瞳から伝わったと思う。

イクスはにこりと笑って「もちろんです」と答えた。



うん。イクスは今日もイケメンね!!



出発まではまだ少し時間があったため、紅茶を飲みながらのんびりしていると部屋の扉がノックされた。



コンコンコン


「おはようございます。サラです」



げっ!!!サラ!?何しに来たのよ!?

まさか……カイザがこの部屋に泊まったのを知って、また嫌味でも言いに来たのかしら。



今日はサラを侍女として連れて行くため、無下にはできない。怒らせたら、神殿で2人きりになった時地獄だからね。



めちゃくちゃ断りたいけど、部屋に入れるしかないよね……。



「……どうぞ」



カチャ


「失礼致します」



ふわふわの栗毛をなびかせながら、サラが部屋に入ってきた。

昨日の朝は笑顔もなく遠回しな嫌味を言いながら入ってきたのに、今日は笑顔の上に主人公パワーのキラキラまで発生させている。


もちろんキラキラパワーは私の妄想だが。



それにしても、今朝はやけに気合が入っているみたいだけど……なぜ?



「なにか御用でしょうか?」


「リディア様に朝のご挨拶に伺っただけですわ。

やっぱり朝の挨拶は基本ですもの。

……それに、カイザ様がいらっしゃると聞いたのでカイザ様にもご挨拶をと思いまして」



それが理由かーーーーーー!!

ただカイザに会いたかっただけか!!

道理で今朝は猫を3匹は被ってると思ったわ!!



サラはもじもじしながら可愛い女を演じている。

仕草は可愛いが、顔のニヤケを隠せていないのはいつもの事だ。



でも残念でした!!もうカイザはいないわ!!



「わざわざありがとうございます。サラ様。

ですが、カイザお兄様はもうお部屋に戻られてしまったのですよ。

せっかくいらして下さったのに、ごめんなさい」



カイザはもういない。

と知った瞬間、サラの上から猫が2匹いなくなった。


もじもじしていた動きもピタリと止み、顔に貼りついていた100%の笑顔も20%くらいに下げられた。

声のトーンもほぼ素の高さだ。



「あら。そうなのですね。

ではもう戻りますわ」


「そうしていただけますか」


「はぁ……。リディア様?

本来なら、年下であるリディア様から私の元へ挨拶に来るべきなのですよ?

私は優しいからこうして許してあげますが、侯爵令嬢としてきちんと礼儀を……あっ!!」



すっかり昨日の嫌味サラに戻っていたのだが、私の後ろの方に立っているイクスの存在に気づいた途端にまた猫が戻ってきた。


先程とは2オクターブは高く甘い声で、イクスに近づき話しかけている。



「イクス卿もいらしたのですね。おはようございます」



潤んだ瞳で上目遣いにイクスを見つめている。

頬を少し赤く染めて、手は乙女らしく口元に添えられ、すっかり可愛いモードに戻っているようだ。



イケメン達へのアピールがすごいわね……。

でも、イクスはサラが好きだから喜んでいるのかしら?



イクスの顔をチラッと見てみる。

イクスは久々に好きな人に会ったというのに、またもや床に落ちてる髪の毛を見るような冷めた目でサラを見つめていた。



……相変わらず、イクスの恋する瞳はおかしいわね。

好きな人が婚約解消をしたら自分のものにする!なんて言ってたくらい、熱烈に好きなはずなのに。


これがポーカーフェイスってやつ?

小説でイクスがサラに一目惚れするって知っていなかったら、絶対に気がつかなかったと思うわ。



2人の様子を見ていると、すぐ背後から声がした。



「誰だ?あれは」



!?


驚いて振り返ると、カイザが私の真後ろに立っていた。


いつの間に!?



「カイザお兄様!!寝なくていいのですか!?」


「もう寝た。2時間も寝れば大丈夫だ」



2時間!?全然寝れてないじゃない……。


でも、普通なら目の下にクマができて疲れ切った顔になりそうなものだが、カイザのキリッとした目つきに疲れなどなくとても睡眠不足には見えない。

むしろ男らしさが増して、格好良く見えてくるくらいだ。



これが英雄騎士の姿か……!!


いつも脳筋な部分ばかり見ているから忘れていたけど、これでも壮絶な戦争を勝ち抜いてきた人なんだわ。  

少しだけ見直してあげよう。



そんな事を考えていると、横から甲高い声が響いた。



「カイザ様っ!!お久しぶりでございます〜!」



……忘れてた。

サラの猫撫で声を聞いて、私の方が疲れ切った顔になりそうだわ。



サラはすぐにカイザの元にも近寄り、上目遣いで話しかけている。

カイザはサラが誰だかわかっていなさそうだったが、イクスが耳打ちして教えていた。


エリックの婚約者という事で、無礼な態度はとらずにきちんと話を続けている。



そういえば、部屋の中でカイザとイクスがサラと話している姿を見るのは初めてだわ。

小説の中ではサラはうちに住んでいるのだから、きっとこれが日常の風景なのよね。


小説の話がスタートしたら、2人はサラに夢中になってしまうのかしら。

今は真顔で話してるけど、優しい笑顔でサラと話すようになるのかな?



そんな姿を想像すると、胸が痛んだ。


サラを虐めてしまったリディアの気持ちがわからなくもないかも……なんてね。


しないよ!?虐めなんて!!

もししてしまったら、処刑エンド真っ逆さまだもの。



ただ、小説のリディアも本当は寂しかっただけなのかもって思ってしまっただけだ。

もちろん虐めも殺人未遂もやりすぎだけど……。


リディアの事を考えると少し切なくなってしまった。










馬車で1時間ほどかかり、グリモールの神殿に到着した。


神話とかに出てきそうな、丸みを帯びた太い柱で作られた真っ白な神殿。

庭には大きな草木が敷地の周りを囲い、色とりどりの花がたくさん咲き誇っている。

この中だけ季節や空気が変わって見えて、まるで別世界のようだった。


神殿の前には、真っ白な服を身に纏った神官達が数人並んで立っている。

私達を出迎えてくれているのだ。



神官達の中から1人だけ一歩前に出ている方が、1番偉い大神官だろうか。

まるで痩せたサンタクロースのように、白く長い髭を揺らしながらニコニコしている。



とても優しそうに見えるが、こういう人が意外と怖かったりするのよね。



私達が神殿の入り口まで歩いて行くと、サンタのような神官が軽くお辞儀をして挨拶をしてきた。



「ようこそ、ルイード殿下。巫女様。

グリモール神殿の大神官、マデランスと申します。

早速巫女様のお部屋へご案内致します。

どうぞ、こちらへ」



マデランス大神官は、さっと右手を神殿の通路の方に向けた。

すると後ろに並んでいた若い神官の1人が、私を案内しようと列から離れた。



え!?もう移動するの!?

せっかく王宮からルイード皇子が来てるのに、一言挨拶しただけで終わり?

神殿と王宮はそんなに親しくないって聞いた事あるけど、ここまで不躾なんて……。



皇子やエリックの方をチラッと見ると、あきらかに不穏な空気が漂っていた。

特にエリックは、無表情の中にも苛立ちを隠せずにいる。


そんな空気に気づいているのかいないのか、大神官は落ち着いた様子で話を続ける。



「侍女の方はどなたかな?」



サラがすぐに反応して一歩前に出る。



「あっはい!!私です。私は……」


「ではこちらへ」



自己紹介をしようとしたサラを、ぶった斬ったーーーー!!!

名前すら聞かないの!?

ちょ、ちょっとこの大神官、いくらなんでも失礼すぎないかしら!?


あーーーーサラの笑顔が凍りついてるわ!!

こわいっ!!

朝から機嫌を損なわせないようにがんばったのに、ここで怒らせちゃうなんて……。



私はガクッと肩を落としながら、皇子やエリックに声をかけた。



「で、では行って参りますね……」



不穏なオーラを発するエリックとルイード皇子にそう伝え、不穏なオーラを放つサラと一緒に神殿の中へと進んで行った。



もう……いきなり前途多難なんですけど……。




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

昨夜、短編『毒舌執事と初恋を拗らせすぎた王子』を投稿しました。

隙間時間にでも読んでいただけたら嬉しいです。

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