72 なぜ私が巫女なのでしょうか?
密輸についての内部情報を知ってるかもしれない、現在行方不明のワムルを見つけ出す……!!
と言っても、そう簡単にはいかないわよね。
「はぁ……」
ため息をつきながら、メイの淹れてくれた紅茶を飲んだ。
私が最近悩んでいる事を知っているからか、いつもより甘く心が満たされる。
さすがはメイだわ。私の事、よくわかってる!!
午後の勉強も終わり、今は優雅にティータイムを楽しんでいた。
もうすぐイクスが訓練から帰ってくる頃ね。
またワムルについて話し合わないと。
ワムルがどこに監禁されているのか、私とイクスの考えは同じだった。
おそらく、毎月1週間ほど窃盗団を匿っているという、ドグラス子爵邸の別棟だろう。
直接調べに行きたいが、ナイタ港湾のあるグリモールの街までは馬車で2日はかかる。
エリックからの指令でもないのに、そんなに長く護衛騎士のイクスが私の側を離れる事は出来ない。
かと言って私も一緒にグリモールになんて行かせてもらえるわけないし……。はぁ……。
「……やっぱりお元気ないですね。
本日はいつもよりも紅茶やケーキを甘めにしてみたのですが、それくらいでは癒されませんよね」
メイがシュンとしながら声をかけてきた。
私がずっとため息ばかりついているから、心配させてしまっているみたい。
「そんな事ないわよ!
甘くてすごく美味しいし、十分癒されてるわ。
気を遣ってくれてありがとう」
メイを安心させたくて、にっこり微笑む。
メイはぱぁっと顔を輝かせて、笑顔で爆弾発言をしてきた。
「良かった。リディア様、サラ様がいらっしゃる日はいつも怯えていらしたので、本日も不安かと……」
「…………え?」
え?今、なんて言いました?
サラが……いらっしゃる日??
「え?今日、サラ様がいらっしゃるの?うちに?」
「はい……?もう、2時間前にはいらしていますが」
なんだとーーーー!?
サラが今この家にいるの!?ウソでしょ!?
サラとは、王宮の控え室で激しく言い争いした日から会っていないのよ!!
あの時話の途中でルイード皇子が来ちゃったから、中途半端なままなのよね。
ぶっちゃけ、めちゃくちゃ気まずい!!
「わ、私は特に挨拶に伺わなくていいのよね!?」
「はい。エリック様に呼ばれていないのであれば、行く必要はございませんよ」
ホッ……。
あーー焦ったわ。出来る事なら、このままサラには会わないまま2人を婚約解消してやりたい。
コンコンコン。
その時、執事のアースが部屋にやって来た。
え。何。嫌な予感しかしないわ……。
「リディア様。エリック様がお呼びでございます」
ほらきたぁぁぁーーーー!!!
嫌な予感的中!!的中しても嬉しくないわ!!
「イヤです!!」って言いたいけど無理よね。
メイがとんでもなく真っ青な顔して私を見ている。
大丈夫。大丈夫よ、メイ。
私はこれでも上司の呼び出しには慣れてるのよ。
自分の心を押し殺すのなんて得意技だから心配しないで。
私は静かに立ち上がった。
アースに案内されて、エリックの執務室横の応接間に通された。
サラはまだエリックの部屋には入れてもらえないみたいね。
2人の距離が全く縮まっていない事に安堵する。
エリックとサラは、応接間のソファに向かい合って座っていた。
部屋に入った途端2人の視線が私に注がれる。
サラはエリックの前だからか、私を睨んだりする事もなくニコニコしていた。
「こんにちは。サラ様。
……お兄様、お呼びでしょうか?」
「ああ。ここへ座れ」
エリックは自分の隣のソファをぽんぽんと叩いた。
一瞬サラの眉毛がピクッと動いた気がしたが、気づかないフリしてエリックの隣に座った。
エリックは今日もサラサラの金髪をなびかせて、王子様のように爽やかだ。顔は無表情だけど。
「実は、王宮から今年の祭祀に参加するよう要請がきた。
お前に巫女として参列するようにと」
「巫女!?」
巫女って……神社とかにいる、あの巫女さん!?
それって日本の呼び名じゃないの!?この世界でも巫女っているの??
あ。でもこの小説は日本人が書いているものだから、そこはいいのか?……じゃなくて!!
なんっっで私が巫女なのよ!?
「あの……お兄様。ちょっと意味がわからないのですが。
何故私が巫女と呼ばれているのでしょうか?」
「お前は何度も神の声を聞いている。
神託を受けた人間なのだから、巫女と呼ばれて当然だろう」
エリックはさも当然と言わんばかりの顔だ。
なるほど。そういう事か。
そういえば、第2皇子暗殺未遂容疑で処罰されたレクイム公爵の事件があった時、私が神託を受けたことが水面下で広がってしまったのよね。
というか、本当はただ小説の内容を知っていただけなんだけど!!
巫女なんて、そんな大層な存在なんかじゃないのに!
気まずくてサラの顔を見ることができないが、ひしひしと異様な空気だけは感じる。
疑ってる……!!絶対疑ってる!!
エリックも、なにもサラの前でこんな話しなくていいのに!!
「あの、それは必ず出席しなければいけないのですか?」
「一応陛下の命令だからな。
心配するな。今回の祭祀は我が領地にある神殿で行われる事になっている。
グリモールという賑やかな街だ。
きっとリディアも気にいるだろう」
「グリモール!?」
私が想像以上に激しく反応したからか、エリックもサラもビクッと少し驚いていた。
グリモール!?
まさに行きたいと願っていた場所じゃないの!!
こんな偶然ある!?
正直、巫女として祭祀に参列するとかは勘弁願いたいところだけど、仕方ないわ!
せっかくグリモールに行けるチャンスなんだから!
「わかりました!祭祀に参加致します」
私の真剣な表情を見て、エリックがふっと優しく微笑んだ……気がした。
エリックはコクンと頷き、サラを一瞥した。
「祭祀当日、神殿の内部には侯爵家以上の貴族令嬢しか入れないことになっている。
メイもイクスも入ることができない。
そこで、サラ様がお前の侍女として入ると申し出てくださった」
…………え?
「お前とサラ様は……一悶着あったが、あれはサラ様の勘違いだったと訂正してくださった。
お前と仲直りしたいと言っている」
…………はい?
それ、前に私がサラを押して転ばせたとか言ってたやつのこと?
今さらそんなのどうでもいいというか、もうそれ以上の悶着があったというか……。
「侯爵令嬢にこちらから侍女になって欲しいとは頼めないし、お前も侍女なしで支度をするのは困難だろう。
本来なら婚約者であるサラ様にも頼めない事なのだが、本人から強く懇願されてな」
…………なんだって?
「はい!私、妹になるリディア様とは仲良くしたいんです。
私なんかでは役に立たないとは思いますが、ぜひリディア様の侍女として同行させてくださいっ」
サラがいつにも増して猫を被りまくった甘い声を出した。
ニコニコしながら私を見つめているが、本心ではない事くらいさすがにわかる。
な、なにを考えているの……?
自分から私の侍女を申し出たですって?
というか……侍女?サラが私の侍女?
サラに祭祀での私の身支度をさせるというの?
イクスもメイも入れない神殿の内部に、サラと2人きりで行けと?
そんな拷問ルートあります?




