7 男主人公の登場に身体が震えました
朝食後、執事のアースと名乗る男が部屋にやってきた。
60代くらいのおじいちゃんで、長い間この屋敷で執事として働いてくれているらしい。
物腰の柔らかい、とても優しそうな人だった。
「お嬢様……。
昔と変わらず、とてもお美しゅうございますね」
メイと同じく、なぜかこの執事までもが私の姿を見て涙目になっている。
よほど昨日までのリディアが嫌だったのでしょうね。
嬉しいような複雑な気持ちになる。
「アース。この部屋の家具を全て変えたいのだけど、できるかしら?」
私が質問すると、アースはニコニコしながら答えた。
「もちろんでございます!!
オーダーメイドになさいますか?お時間が少々かかりますが……」
オーダーメイド!?
それって……一体いくらかかるの!?
きっとこの家具、ものすごく高いはずよね。
私のワガママで全部取り替えてもらうのに、そんなにお金はかけたくない。
「新しくなくてもいいの。
もっとこう……明るくて可愛らしい家具に変えたいだけなの。
どこかに使っていない、そういう感じの家具はないの?」
私の節約を重んじる発言に、執事のアースもメイも後ろに立ってるイクスまでもが驚いていた。
イクスは疑うような視線をぶつけてくるし、アースやメイは感激したような顔でこちらを見つめてくる。
「ご、ございます!!
今すぐに運んで参りますので、ぜひ見ていただけたらと思います」
そう言ってアースは部屋を飛び出して行った。
メイは嬉しそうな顔をしながら、私にお茶を入れてくれている。
メイのお茶はとても美味しいのよね。
甘くてさっぱりとしたお茶を飲み干した時、アースがやってきた。
数人のメイド達が、テーブルや椅子を持っている。
「こちらなのですが……」
アースが持ってこさせた家具は、ピンクが基調の小花柄のとっても可愛い家具だった。
可愛い!!
以前の私なら全く似合わないような家具だけど、天使のリディアにはピッタリだわ!!
今の部屋の赤や黒の家具とは比べようもない!!
「可愛い!!このシリーズに全て取り替えてくれる?」
「かしこまりました!!」
次々と運び出される赤や黒の派手な家具。
そして次々と運ばれてくる可愛いらしい家具。
どんどん気持ちが晴れやかになっていくみたいだわ。
家具の置き場所を指示していくが、部屋が揃えられていくたびに……違和感が増していく。
あぁ……せっかく家具が可愛いのに、この派手な真っ赤なバラの壁紙が全てを台無しにしているわね。
破り捨ててやりたいくらい。
今すぐに壁紙の業者を呼び出して取り替えさせたいところだが……今謹慎中の私は、屋敷の者以外との接触は禁止されている。
謹慎が終わるまでは我慢するしかない。
そんな事を考えていると、突然部屋の入り口から聞き慣れない声が聞こえた。
「一体なにをしている?」
その低く暗い声に、なぜか背筋がブルッと震えるくらいの恐怖を感じた。
すかさず入り口を振り返ると、1人の男が立っていた。
リディアと同じ綺麗な金髪。
前髪が少し長く、目を隠しているようだがチラッと見える瞳は薄いグリーンでとても綺麗だ。
背が高くオーラのある佇まいは、本の中から王子様が出てきたのかと錯覚させられるほどだった。
なんて美しい青年……!!
でも、きっと彼は……
私の手は知らないうちにブルブル震えていた。
この小説の主人公の夫にあたる人物。
リディアの兄であり、リディアの処刑を命令したその張本人でもある。
「エリックお兄様……」