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5 リディアの素顔


「はぁ!?だ、抱きしめ……!?」



予想外の言葉に、思わず声が裏返ってしまった。



はっ!!

そういえば、リディアは毎晩イクスに抱きしめてもらってたんだわ!!

この逆セクハラ女め!!



想像するだけで顔が赤くなってしまう。

イクスは無表情のまま私を見つめて腕を広げた。



きゃあ!!!

だ、抱きしめる準備してる!?

早く断らなきゃ……。


でも、こんなイケメンに抱きしめてもらえるなんて、なかなか経験できる事じゃないし……どうせならしてもらっちゃう!?


正直、イクスの顔はめちゃくちゃタイプなのよね!!



って……いやいや!!

そんな事をしたら私もリディアと同レベルじゃない!!

私なんて精神年齢28歳なんだから、10も年下のイクスにそんな事したら犯罪よ!?


でも、騎士の格好をした男性に抱きしめてもらう事なんて、もうないかも。

その逞しい腕でぎゅーっと抱きしめて欲しい!!


いや。でも……!!



天使と悪魔の私が囁き合っている。



理性と煩悩の熾烈な争いだわ!!



「リディアお嬢様……?」



すぐに返事をしない私を、不審そうな顔で見つめてくるイクス。

暗い表情をしているのは、きっとイクスはこんなことを望んでいないからだろう。


一気に冷静になった。



だめだめ……!!

こんなの、気持ちがなければ虚しいだけじゃない。



「もうこれからは、抱きしめなくて大丈夫よ」



そう伝えると、イクスは驚いたようなほっとしたような顔をして、軽くお辞儀をしてから出て行った。



はぁ……。

なんとか犯罪者にならなくて済んだわ。



「お嬢様。準備ができました」



メイに案内されて浴室へ向かう。

この世界で初めてのお風呂。

メイが身体も髪の毛も全て洗ってくれた。



恥ずかしいけど、異世界漫画を読んでいた時から少し憧れでもあったのよね。

メイドさんに全身洗ってもらうの。

なんて楽なの……。



お風呂から上がり、幸せ気分で鏡の前に立った私は目を見開いた。



「だ、誰これ!?!?」



鏡に映っていたのは、金髪縦ロールの濃くてキツいメイクをした悪女ではなかった。


黄金でサラサラのストレートなロングヘア。

白く透き通った肌に、まん丸くパッチリとした大きく愛らしい目。

長いまつ毛がキラキラしている。

どこから見ても天使にしか見えないほどの美少女が、そこに映っていた。



私!?この天使は私なの!?

か……可愛いすぎるーーーー!!!

なんなのこの美少女ーーーー!!



「メイ!!私……私はなんでいつもあんなメイクをしているの!?

素顔はこんなに可愛いのに!!」



まるで自意識過剰な女の台詞だが、本当なのだから自慢でも嫌味でもなんでもない。



「お嬢様が、エリック様に少しでも近づけるようにと大人っぽさを目指した結果でございます」



私の髪の毛をタオルで拭きながらメイが答えた。



大人っぽさの結果がなんで縦ロールになるわけ!?

リディアの美的センス、おかしいんじゃないの!?



「この素顔を知ってる人って……」


「お嬢様は7歳の頃からずっとあのお姿です。

成長と共にさらにお美しくなった現在の素顔は、私しか知りません。

それよりお嬢様、今日はいつもとご様子が……。

頭をぶつけた事で、なにか記憶が……」



あっ!!そうよね。

私、今日はメイに変な質問ばっかりしてたわ。



「そうなの!頭をぶつけたせいで、ちょっと記憶がごちゃごちゃになってて〜。

ははは……」


「お医者様をお呼びしましょうか?」


「大丈夫!!大丈夫!!

それより、明日からはもうメイクも縦ロールもしなくていいわ!!」



そう伝えると、メイの顔が輝いた。



「……!!かしこまりました!!」



すごく嬉しそうにそう返事をした。



こんな可愛い顔をあんな悪女風にしなきゃいけないなんて、きっとメイも嫌だったのね。


それにしても、リディアの素顔がこんなに可愛いなんて知らなかったわ。

小説にもそんな事書いてなかった気がする。



チラッと部屋にかけられた悪女の自画像を見る。



明日になったらあれは捨ててしまおう。

もういっその事燃やしてしまおうか。


今の姿の方が好かれるに決まってるわ。

私が少しでも生き残る可能性を高めるためにも、悪女のイメージを消していかないと。


明日から私も部屋も全て変えていってやる!!



そう心に決めた。


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