4 護衛騎士イクス
突然のイクスの登場に、固まってしまう私。
イクスは私と目を合わせない。
俯いたまま近づいてきたと思ったら、何も言わずに私の前に座った。
え!?なんで座るの!?
私これからご飯食べるのに……。
護衛騎士って、後ろに立ってるものなんじゃないの!?
メイはその様子を見てもなにも驚きもしないまま、食事の準備を進めている。
テーブルに並べられていく料理は、どう見ても1人では食べ切れない量だ。
「本日からしばらく謹慎となりましたので、お食事もお部屋でご用意させていただきます」
メイはスープを私の前とイクスの前に置きながら言った。
え?謹慎?
そういえば、リディアがなにか悪さをするたびによく謹慎させられてたっけ。
今度は何をしたのよ……って、それどころじゃない!!
「あ、あの……それは構わないのだけど……。
なぜイクスが一緒に座っているのかしら?」
私の質問に、イクスはジロッと私を睨んだ。
な、なによ!!
護衛騎士のくせに、態度悪くない!?
思わず睨み返してしまう。
メイは不思議そうな顔をしている。
「お食事の時にはイクスも一緒に食べるようにと、お嬢様が前から決めている事ではありませんか」
え!?なによそれ?
……あっ!!そういえば、そんな話があったかもしれない。
イクスが若くしてリディアの護衛騎士に選ばれたのは、リディアが顔で選んだから。
イクスの事がお気に入りだったリディアは、食事を必ず一緒にさせたり……無駄にお姫様抱っこさせたり……命令してハグさせたり……さらには添い寝までさせてたんだった!!
逆セクハラのようなものだわ!!
だからイクスはこんな目で私の事を見てるのね。
まるでセクハラ上司を軽蔑の眼差しで見ているような、憎々しい目で。
自分がさせた訳でもないのに、恥ずかしい!!
私はセクハラなんかしませんよ!!
「そ、そうだったわね。でももういいわ。
これからは1人で食べます」
そう言うと、イクスとメイは目を見開くほど驚いていた。
2人は目配せをして、イクスは私の様子をうかがいながら席を立った。
なによ!?ウソじゃないわよ!!
疑わしい目を向けながら、イクスは私の後ろ……通常の護衛騎士が立つべきであろう場所に立った。
ううーーーん。
後ろに立たれるのも気になっちゃうんだけど。
でも、護衛騎士なんだから仕方ないよね。
それくらいは我慢しなきゃ……。
なんだか一瞬で食欲がなくなったわ……と思いながら、スープを口に運ぶ。
あまりの美味しさに「うわっ!おいしっ!」と叫んでしまった。
あっ……ヤバイ。
リディアはこんな反応しないわ。
これでも一応侯爵令嬢なんだから。
近くに立つメイとイクスからの視線に気づかないフリをして、そのまま食べ続けた。
それにしても美味しすぎる!!
スープもお肉もデザートも!!
さすが侯爵家の食事はすごいわね。
気づくと外が真っ暗になっていた。
そういえば、どうして私は昼間だっていうのにベッドで寝てたのかな?
お昼寝?でも体調を心配されてたような……。
「ねぇ。メイ。
私、どうしてさっきまで寝てたの?」
食後の紅茶を淹れていたメイが、少し動揺した。
「そ、それは……エリック様から謹慎を命じられて、花街でのお祭りに参加できなくなったので……その……お嬢様が少し暴れてしまって、その際に頭をぶつけ……」
覚えてないの?という顔でメイが説明してくれてるのを、慌てて止める。
「わかったわ!!もういい!!」
なんなのよその理由……。
恥ずかしすぎるでしょ。
改めてその話をした事で、また私が暴れるのではないかという心配もしているようだ。
メイとイクスがそわそわしている。
もう暴れたりしないから安心してよ。
なんて言っても、信じないんでしょうね。
「食事はもういいわ。
お風呂に入ってもう寝ます!」
はぁ……。早く1人になりたい。
食事の間だけでも、すぐ近くで自分を見守ってる人がいるなんて疲れちゃう。
メイはすぐにお風呂の準備に向かった。
すぐに出て行くかと思ったイクスは、まだ私の後ろに立っている。
なんで出て行かないの?
お風呂入るって言ってるじゃない。
「イクス……。もう出て行っていいのよ」
そう言うと、イクスは私に近づいて来た。
えっ!?なになになに!?
なんで近づいて…って、近くで見ると本当に整った顔してるわね!!
こんなイケメン、なかなかお目にかかれないわ。
アイドルでもやっていけそう……。
あまりに綺麗な顔に、つい見惚れてしまう。
イクスは相変わらず暗い表情のままだ。
でも真っ直ぐに私を見つめたまま口を開いた。
「抱きしめなくてよろしいのですか?」