30 ルイード皇子目線
僕はずっと病弱だった。
正確に言うならば、病弱になった。
小さい頃は元気に走り回る子どもだったはずだ。
いつからだろう…。
走るとすぐに息切れしてしまう、剣の練習もまともに出来ない、すぐに熱を出しては寝込んでしまう。
ルイード皇子は弱い皇子。
いつからかそれが当たり前の認識になっていた。
もちろん王位継承からも外された僕は、気づけば侯爵家の令嬢と婚約させられていた。
こんな僕でも一応皇子なのだ。結婚も必要なのだろう。
数回だけ会った彼女は、いつもつまらなそうに僕を見ては冷たい視線を浴びせてきた。
キツくて怖いその顔を、僕は見る事ができなかった。
ところが久々に会った彼女は全くの別人になっていた。
違う意味で目を合わせられないほどの見た目の美しさもそうだが…温かい雰囲気になっていた。
一緒にいるのが苦痛ではない。
どこか恥ずかしくて気まずい気持ちはあるが、嫌ではない。
彼女は神の声が聞こえるらしい。
それにより、僕の病気が毒によるものだという事に気づいた。
すごくショックだった。
ずっと周りから馬鹿にされて蔑まれてきたのは、病気のせいじゃなかった。
僕自身のせいじゃなかったのだ。
誰かの企みだったのだ!
悔しい!悔しい!悔しい!
ガリガリに痩せ細った身体も、体力のなさも、全部毒のせいだった!
今まで自由に動けなかったのも、こんなに情けない男になってしまったのも…。
今までに感じた事のないドス黒い感情に、心がついていかない。
誰にも会いたくない。
誰も信用できない。
そんな僕にまた手を差し伸べてくれたのは彼女だった。
少し強引に。でも優しく、僕に寄り添ってくれる。
自分は味方だと…言ってくれた。
彼女といるだけで温かい気持ちになれる。
だが彼女の綺麗な薄いブルーの瞳に見つめられると、心臓が激しく動く。
一緒にいると、落ち着くのに落ち着かない。
この不思議な感情はなんだろう…?
彼女はしばらく僕の隣の部屋に滞在する事になったらしい。
隣の部屋は、僕の妻のためにと用意された部屋だったはずだ。
廊下に出る事なく、部屋を行き来できるようになっている。
その部屋に、彼女が滞在する!?
一気に心臓が早鐘を打つ。
いくら婚約者とはいえ、ありえないだろ!
まだけっ…結婚していないのにっ!
陛下の命令だと言うが、メイド達の様子を見る限り全員一致での意見だったに違いない。
この状態を、彼女はどう思っているんだ!?
拒絶しているのでは…と心配になり、彼女の顔色を伺ってみるが明るい笑顔が返ってきただけだった。
嫌ではないのか…?
安堵の気持ちと同時に、緊張してくる。そして落ち込んだ。
彼女は全く気にしていないようだ…。
僕に対していつも余裕な態度をしている気がする。
……僕がこんなだからだろうか?
彼女より1つ年上だというのに、見た目はまるで僕の方が年下に見える。
身長もほぼ変わらないし、体型だって痩せ細っている。
力も体力もなく、きっと彼女を抱き上げる事すら出来ないだろう。
こんな男に魅力なんてある訳がない。
解毒薬を一度飲んだだけでも、身体が軽くなったのがわかった。
このままいけば、回復も早いかもしれない。
早く回復したい。
そうしたら、すぐに身体を鍛えて男らしい…いや。皇子らしい皇子に!
なれるように努力しよう。
嫌われたくない。
彼女に相応しい男になりたい。
目の前で微笑む彼女を見て、僕は心に誓った。




