3 悪役令嬢ですが、なんとか生き残りたいです
ちょっと待ってちょっと待って!!
もし私が『毒花の住む家』に出てくる義妹、リディアに転生したのだとしたら詰んだ!!
最悪の処刑エンドじゃない!!
でもまだ……同じ名前なだけかもしれない……。
確認してみなきゃ!!
「あの。私には2人……お兄さんがいるわよね?」
お願い!!違うと言って!!
そんな希望を胸にメイに聞いてみたが、
「はい。いらっしゃいますが」
あっさりとぶった斬られてしまった。
くそぅ!!
まだまだ!!偶然かもしれないもの!!
「な、名前は……エリックとカイザ……?」
「そうですが……」
合ってるし!!!
ここまでの偶然が重なる事はない。
もう……認めるしかないのね……。
はぁ……最悪。
でも、もう1つ大事な事を聞いておかないと。
「私は今何歳かしら?」
「15歳ですが……。お嬢様、どうかなさったのですか?」
心配そうに私を見つめるメイ。
毛布を持ったまま作業が止まってしまっている。
頭がおかしくなったとでも思われてるかな。
なんとか修正したいところだが、あいにく今の私にはそんな余裕なんかない。
ここは間違いなく、あの小説の中なんだ。
「メイ……。ごめんなさい。
ちょっと1人になりたいの。
呼ぶまでは誰も部屋に入らないようにしてくれる?」
そう声をかけると、メイは目を見開いて驚いていた。
「お、お嬢様が謝った……」
そう小声で囁いた後、慌てて口をつぐんだ。
ペコッと大きくお辞儀をしたかと思うと、「かしこまりました」と言ってすぐに部屋から出て行った。
……『私』がごめんという言葉を口にするのが、そんなにめずらしいの?
一体どれだけワガママな女なのかしら。私は。
まぁ知ってはいるけど。
リディアがどれだけ最悪で最低な令嬢なのか。
ため息をつきながら、部屋を漁って紙とペンを探し出した。
丸くて小さなテーブルにそれを広げる。
さて!!今私が覚えている小説の内容を、全部書き出しておかなきゃ!!
知ってる小説で良かったと思おう!
私の破滅フラグを全て回避できるんだから。
処刑エンドなんて絶対になるもんか!!
たしか物語の始まりは、主人公が長男であるエリックに嫁いできたところから……。
その頃妹のリディアは17歳だったはずだから、今からあと2年後ね!!
うん!!2年もあれば、色々と準備ができるわ。
この話は、私が主人公を虐めなければ問題はなさそうに思える。
だがもしストーリー通りにするための『強制力』があるとしたら、絶対に安心とは言えない。
確実に私が死なないようにするためには、主人公がこの家に来る前に家出をしちゃえばいいのよ!!
平民として生きていかなきゃいけないけど、元々貴族でも金持ちでもなかった私には、そっちの方が自然だわ。
料理も掃除も……一通りの家事はできるし、仕事さえ見つかればなんとかなる!!
2年後……主人公が現れる前に、絶対家出してみせるわ!!
そしてそれまでは大人しくして、できるだけ他のメインキャラ達から嫌われないようにしないと。
少しでも処刑エンドの可能性を低くする必要があるわ。
目標が定まった途端、お腹がぐぅ〜と鳴った。
そういえば、目が覚めてからまだ何も食べてない。
気づけば明るかった空が薄暗くなってきていた。
メイを呼んで食事の用意を……と思ったのと同時に、部屋がノックされた。
「お嬢様。お食事はどうなさいますか」
このメイドはなんて優秀なのかしら。
まさか部屋のすぐ側で、私のお腹の音を聞いた訳じゃないわよね……?
「お願いするわ」
部屋に入ってきたメイは、すでに食事を乗せたカートを運んできていた。
美味しそうないい匂いが部屋に充満する。
またお腹が鳴ってしまいそう……。
すると、メイの後ろから一緒に部屋に入ってきた人物に目がいった。
焦げ茶色の短い髪に、端正な顔立ち。
騎士のような格好をした16、17歳くらいの男の子。
どこか元気がないような暗い顔をしている。
まるでこの場にいるのが苦痛といったような顔だ。
仮にも侯爵令嬢の部屋に入ってきてその顔をしているのは失礼ではないのだろうか。
でも、この少年は……もしかして……。
「イ、イクス……?」
イクスと呼ばれた少年は暗い瞳をこちらに向けた。
深い緑の瞳と目が合い、すぐに逸らされた。
ドクンドクン
心臓が早鐘を打つ。
リディアの護衛騎士イクス。
この小説のメインキャラの1人。
主人公に叶わぬ恋をして、リディアを裏切った。
リディアを捕まえて、実際に処刑したこの男が……今、目の前にいる。