29 恋愛ドラマ観てる視聴者かよ
「はぁ…」
目の前に並べられた美味しそうなたくさんのケーキやクッキー。
そして良い香りのする紅茶。
普段なら幸せいっぱいの顔で過ごしているであろう、おやつタイムなのに…ついため息が出てしまう私。
王宮にしばらく滞在する事になったのはいいとして…。
なんっで皇子との繋ぎ部屋なのよ!?
ここは、ルイード皇子と結婚した女性が住むべき部屋なんじゃないの?
ニヤニヤ&キラキラしながら私を期待の目で見つめてきたメイド達の顔が浮かぶ。
しかもこの部屋の可愛さったら!!
天使のリディアに似合いすぎているわ!
まさか私に合わせてこの家具を揃えた訳じゃないわよね…?
もしそうなら、重い!!重すぎる!!
そのうち婚約解消する立場として、こんなの重いっつーの!!
「はぁぁぁーー…」
今はイクスと2人きりなので、ついつい素でため息をついてしまった。
「大きいため息ですね」
そう言ってくるイクスも、私に負けないくらいの大きなため息をついてるけど?
イクスもメイド達の態度に不満そうだった。
この部屋に案内されてからずっとイライラしているみたい。
「ここのメイド達はみんな私とルイード皇子がうまくいく事を願っているのね」
美味しそうな苺のタルトをぱくっと一口食べる。
甘いクリームが口の中で広がって、疲れた心を少し癒やしてくれた。
「…それはそうでしょう。リディアお嬢様はルイード皇子様の婚約者なのですから」
少し不機嫌そうな声で俯きながらイクスが言った。
ん??イクスも、私とルイード皇子が結婚すると思ってる??
「婚約者なのは今だけよ。
ルイード皇子が病弱だったから、私と婚約していたのよ。
そうでなければ皇子が侯爵家と婚約なんてしないわよ。
これでルイード皇子が健康になったら、私とは婚約解消して…正式にどこかの国のお姫様か公爵家の令嬢と婚約するはずよ」
私の言葉を聞いて、イクスが顔を上げた。
驚いた顔には、嬉しいような…納得いかないような…複雑な表情を浮かべている。
「そ、そんな。リディアお嬢様を利用するだけ利用して…勝手に婚約解消なんて…。
いや、でもその方がいいんだけど…でも…そんな扱いを受けるのも…」
なにやらブツブツ言っている。
婚約解消される私の事を不憫に思ってるのかしら?
「安心して。イクス。
私は別にルイード皇子様をお慕いしてはいないわ。
婚約解消されても悲しくない…というより、むしろ嬉しいくらいよ!
王宮に嫁ぐなんてごめんだわ!」
きっぱりハッキリと言った私を見て、イクスは一瞬目を丸くしていたが…すぐにクスッと笑った。
「リディアお嬢様らしいですね」
イクスも兄達に負けず劣らずのイケメンだ。
おおおイケメンの笑顔の破壊力よ…!!!
思わずケーキを落としそうになったわ。
こんなイケメン達から愛を囁かれ続けた主人公って、鋼の心臓をしているのかしら?
私だったらすぐに鼻血出して倒れそう…。
残りのケーキを食べ終わった頃、メイドがやって来た。
「リディア様。ルイード皇子様がお目覚めになりました」
だから何よ?
私は彼の専属看護師じゃないのよ?
そんな言葉を飲み込み、私は席を立ち部屋にあるドアの前に立った。
そしてノックをして皇子へ声をかける。
「ルイード皇子様。リディアでございます」
「えっ?」
部屋のむこう側で驚いている皇子の声がする。
ルイード皇子は幼くて純粋で、本当に可愛いのよね。
メイド達の視線は嫌だし、結婚する気なんて全くないけど…ルイード皇子の事は嫌いじゃない。
笑いを堪えながら、「失礼します」と言って皇子の部屋と繋がったドアを開ける。
皇子はベッドに座って水を飲んでいた所だった。
このドアを使って私が入ってきた事で、皇子は色々と察したらしい。
みるみる顔が真っ赤になっていく。
あらら。おもしろ…っじゃなくて、可愛いわね。
「そ、その部屋は…なぜリディア嬢がそこから…」
「陛下のご命令でリディア様をご案内させていただきました」
慌てている皇子に向かって、皇子専属メイドが説明した。
皇子は「そんな……」と言いながら私から少し視線を外した。
顔はまだ真っ赤なままだ。
皇子にとっても、この部屋は特別な人用だとわかっているのね。
私も最初は戸惑ったけど、そんな素直に照れてる皇子の姿を見たらおもしろくなっちゃったわ。
「しばらくこちらでお世話になります。
ご迷惑かと思いますが…よろしくお願い致しますね」
私は天使の笑顔を貼りつけて挨拶をした。
「め、迷惑だなんて…!
こちらこそ…父がすみません…」
皇子と私のやり取りを見て、周りにいるメイド達の目が輝いている。
ニヤニヤしていると言った方が正しいかな。
まるで恋愛ドラマでも観ているような目だ。
もーー!!その目やめてーー!!




