2 転生……?
「んーー……」
柔らかいベッドの上で目が覚めた。
いつもより肌触りの良い毛布が心地良くて、なかなか起き上がれない。
あれ……?私……いつの間に寝ちゃってたんだろう……。
部屋にはカーテンがしてあるが、外が明るくなっているのはわかる。
もう朝かぁ……。でもまだ起きたくない……。
今日の布団、なんでこんなに気持ちいいんだろう……。
また目を閉じそうになって、はっとする。
「やば!!今何時!?」
ガバッと勢いよく起き上がる。
今日はまだ平日だった!!仕事行かなきゃ!!
こんなに明るいって事は、遅刻かも!!
「なんでお母さん起こしてくれなかったのよ……」
慌てて時計の置いてある場所を見る。
ん!?
そこには、見覚えのない高級そうな金の家具が置いてあった。
な、なにこれ……。お母さんが買ってきたの?
そう思いながら部屋を見回して、やっと異常に気づく。
「……え?こ、ここ……どこ?」
その部屋は実家の1階全部を合わせたよりも広かった。
どこかホテルのスイートルームだろうか?
それにしては趣味の悪い部屋だと思った。
真っ赤なバラ柄の派手な壁紙に、金や黒の高級そうな家具がたくさん並んでいる。
学校の黒板より大きい絵は肖像画だろうか。
性格の悪そうな女の子の顔が描いてある。
今自分が寝ているベッドも、キングサイズくらい大きかった。
お姫様の部屋とかでよく見る、天蓋ベッドというやつではないだろうか。
ベッドにも薄いカーテンのような物がついている。
「な、なにこの部屋。趣味悪……。
まるで異世界漫画に出てくる悪役令嬢の部屋って感じ……」
そこまで言ってハッとする。
こんな場面を、何度も読んだ事がある。
大好きな異世界転生漫画で……。
え?え?違うよね?
まさか……そんなはずない。
だってあれは、ラノベや漫画の世界の話だよ。
現実に起こるはずない……。
その時、部屋の片隅に大きな鏡がある事に気づいた。
急いでベッドから降りて、鏡に駆け寄る。
「ウソ……でしょ……」
鏡に映っていたのは、間違いなく昨日までの私じゃない。
黒髪で地味な私じゃない。
そこにいたのは、ど派手なメイクでいかにも意地の悪そうな目つきをした女の子だった。
性格は悪そうだが、美人には違いない。
金髪の縦ロールがさらに意地悪な顔を引き立てている。
そんな派手な見た目に、赤と黒のゴテゴテのドレスのようなワンピースがよく似合ってる。
似合ってはいるが……この姿はどう見ても、主人公ではなく悪役令嬢って感じだ。
「はぁ……」
なぜ急にこんな事になってしまったのか。
元の私はどうなったのか。
泣き喚きたい衝動に駆られるが、それ以上に私には気になる事があった。
「一体誰なんだろう……」
悪役令嬢のラストといえば、ろくでもないものばかりだ。
婚約者から破談されたり、家から勘当されるなんてかわいいもの。
平民にされたり、国外追放されたり、中には処刑されるラストだってある。
今自分は誰に転生してしまったのか。
もし知らない人であれば、自分の悲惨な未来を回避できないかもしれない。
お願い……。
誰か知ってる人でありますように……。
そしてできれば、そんなに悲惨なラストを迎えない人がいい!!
その時、コンコンコンと部屋がノックされた。
「お嬢様。メイでございます」
メイ?お嬢様?……私のメイドかな?
「入って」
返事をすると、18歳くらいの若いメイドが入ってきた。
茶色の髪の毛をキレイに一纏にしていて、しっかり者である事が一目でわかるほどに賢そうな顔をしている。
メイと名乗ったそのメイドは、部屋の片隅で立ち尽くしている私を見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに真顔に戻った。
「起きていらしたのですね。
もう体調はよろしいのでしょうか?」
体調?……私、体調が悪かったの?
そういえば、寝間着ではなくこのドレスのようなワンピースで寝ていたわね。
じゃあ今は朝ではなく昼間なのかしら?
でも、そんな事よりも……。
私はメイの質問には答えず、質問を返した。
「ねぇ……。私の名前を言ってみて?」
「……?リディア・コーディアス様でございますが」
メイは不思議そうな顔をしながらも答えてくれた。
部屋に入り、先程まで私が寝ていたベッドをキレイに整えてくれている。
リディア……?
リディア・コーディアス?
その名前を聞いた途端、昨夜の姉との会話が思い出される。
誰からも愛されずに、最期は処刑された悪役令嬢………。
そうだ。あの女の名前がリディアだった。
まさかここは、お姉ちゃんに勧めた小説の世界!?