12 ナンパを許せない兄
うーーーーん。
私はこの前の街でのナンパを思い出していた。
お店の窓から私を見ただけで、声をかけてきた貴族。
無理もない。
だってリディアってば本当に可愛いもの。
でも、それってちょっとどうなの?
私はそのうち家出をしてこの小説の悪役から離れようと思っているけど、その後ちゃんと生きていけるのかしら?
私を狙って、どこぞの貴族たちが誘拐でも企んでしまうのでは?
はぁ……。可愛いすぎるっていうのも大変ね。
ここはやっぱり修道院に入るのが無難かな。
結婚に憧れはあるけど、昨日みたいな貴族の元に嫁がせられたらたまったもんじゃない!!
昨日街へ出た時にチラッと修道院を見た。
馬車の中で、メイが教えてくれた。
もっと近くで見てみたいし、シスターとも会っておきたいわ。
「ねぇ、イクス。私また街に行きたいんだけど」
私の横に無言で立っていたイクスに声をかけた。
メイは食事の用意をしていて席を外している。
「……なりません。
エリック様から、もう外出は禁止だと御達しが出ております」
「えっ!?ど、どうして!?」
「……外は色々と危険だからです」
なによそれ?だから、そのための護衛騎士なんじゃないの?
前回のお出かけだって、特に危ない目になんかあっていないのに……。
納得いかない顔をしている私をじーーっと見て、はぁ……とため息をつくイクス。
なんなのよ!?
「……私、エリックお兄様に会ってくるわ!」
部屋を出て執務室へ向かう。
イクスが後ろから付いてきている。
兄のエリックとは、実は数回一緒に食事をしたりしていた。
呼び出すわりには笑顔も会話もほぼないんだけどね。
でも嫌われてはいない気がする。
「エリックお兄様。ちょっとよろしいかしら」
ノックと同時にドアを開ける。
顔をひょこっと覗かせて、入ってもいいかのお伺いを立てた。
「……なんだ?」
怒っている様子はないが、無表情すぎて感情が全くわからない。
でも動かしていたペンを止めてこちらを見てくれた。
入ってもいいという事だよね?
「突然申し訳ありません。
私の外出が禁止されたと聞いたのですが、なぜでしょうか?
私はまた街に行きたいのです。
お願いします、エリックお兄様!!」
エリックの近くまで歩いていき、しっかり目を見て訴える。
撤回してくれるように、お祈りのポーズをしながらウルウルした瞳で見つめてみた。
どうだ!!可愛い妹のお願い、聞いてよ!!
しかしエリックは相変わらず無表情のままだ。
リディアのキラキラ天使攻撃が効かない!?
むしろ、少し冷めた目になってないか?なんで?
イクス同様、エリックは小さくため息をついた後言った。
「……変な男に声をかけられたらしいな」
ん???なんの話??
突然の問いかけに、頭の中が??でいっぱいだ。
もしかして……この前のナンパの事?
「そうですが……。でもイクスが追い払ってくれました」
「今回は相手も貴族だったから、それで済んだ。
もし相手がそういった礼儀も知らないような輩なら、なにか起きていたかもしれない」
エリックは、そこに殺したい相手でもいるの?と聞きたくなるような鋭い視線を、誰もいない壁に向けていた。
無表情が崩れたと思ったらこの顔!!
怖いから!!
思わず一歩後退りしてしまう。
でもここで負けたら本当に外に出られなくなるわ!!
「イクスが守ってくれるから大丈夫です!!」
必死にお願いしたが、エリックは外出許可を出してはくれなかった。
イクスも、さも当然というような顔をしている。
もう!!なんなのよ!!
どうして一度ナンパをされただけで、外出禁止になんてなっちゃうわけ!?