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114 リクトール公爵の罪


「私はいいえと答えただけで、証拠が見つからなかったなどとは一言も言っていませんよ」



エリックのその一言に、また会場がざわつく。

リクトール公爵の顔からは少しだけ笑顔が消えた。



「……その言い方ですと、まるで証拠が見つかったと言っているみたいですね」


「その通りです」


「おかしいですね。先程私が見つかりましたか? と聞いた時には、いいえと答えていたのに」



リクトール公爵とエリックは、冷静な態度で討論を続けている。

けれどその目はどちらも相手を軽蔑しているようにしか見えない。



「リクトール公爵邸、別邸、事業所から見つかったか? と聞かれたので、いいえと答えたのです。

それらからは何の証拠も出ませんでしたから。

…… ボアルネ邸、をご存知でしょうか?」


「なに!?」



あきらかにリクトール公爵の顔色が変わった。

椅子に寄りかかっていた身体をガバッと起こし、細い目を見開いている。


そんなリクトール公爵の態度を無視して、エリックは語り出した。



「リクトール公爵家の領地にある、元ボアルネ男爵が暮らしていた屋敷です。

数年前、ボアルネ男爵は貴殿に不正を暴かれて、爵位を取り上げられたと記録されています。

その後ボアルネ邸には代わりの者を住まわせる事もなく、数年間放置されているようですね」


「……どこでそれを……」


「おかしな事に、数年間放置されているボアルネ邸には新しい馬車の跡が庭にいくつか残されているそうです。

一体誰が出入りしているのでしょうね」


「…………」



先程までとは空気が違う。

余裕そうだったリクトール公爵は、静かながらも怖いくらいのオーラを感じる。

ものすごい威圧感だ。


その時、カイザとイクスが中に入ってきた。

イクスは分厚い紙束を持っている。



「……それは……っ!!」



ガタン! と立ち上がり、リクトール公爵はイクスの方へと歩き出した。

すると今まで静観していたルイード皇子が、公爵をけん制した。



「リクトール公爵。今は討論の最中だ。

口は出しても構わないが、こちらの証拠品に触れることのないように」


「そうです。リクトール公爵。席に着いてください」



裁判官にもそう言われてしまい、リクトール公爵はしぶしぶ自分の席へと戻った。



あ……危なかったわ……。

さっきリクトール公爵がイクスに近寄った時、隣にいたカイザが腕を上げてかまえてたのよね。

あれ、絶対にどさくさに紛れてタックルとかするつもりだったんだと思うわ……。


せっかく今エリックが頑張っているのに、カイザの暴力で台無しになるところだったじゃない!

あの脳筋兄め!!



カイザが小さくチッと舌打ちしたのを、私は見逃さなかった。


カイザとイクスがエリックの隣に立ち、持っていた紙の束をテーブルに置いた。

エリックは、その紙をリクトール公爵に見せびらかすように手に持った。



「こちらが何か……ご存知ですね?

違法商品の取引契約書、人身売買の記録、それから……取引相手である貴族名簿」



傍聴している貴族の一部から「なんだと!?」という驚きの声が上がった。

純粋に驚いているだけの者もいれば、何故かやけに慌てている者もいる。

名簿を見られては困る貴族が、この中にも数人いるようだ。


リクトール公爵は悔しそうに顔を歪めながら、エリックを睨みつけている。

こんなに感情を顔に出している公爵は初めて見た。



「何故その場所がわかった!?」


「優秀な者が教えてくれましたよ。

まあ候補は他にも何ヵ所かあったので、本当の隠れ(みの)を見つけるのに少し苦労はしましたが」


()()……?」



エリックの言葉に、カイザとイクスが苦い顔をしながら反応していた。

数日間睡眠もろくに取らずに走り回っていたのだから、少しの苦労という言葉が引っかかるのも仕方ないだろう。



それにしても、情報を教えた優秀な者ってジェイクのことかしら?



ジェイクがルイード皇子に渡していた封筒が頭に浮かんだ。


その後、カイザが屋敷で発見した物を報告し、見つかったテーブルと椅子が闇市場で見た物と同じだったとイクスが証言した。



「他にも候補の上がっていた屋敷は、皆リクトール公爵の訴えにより没落させられた貴族の元屋敷でした。

まさか隠れ蓑を作るために陥れたわけではないですよね……?

まあそこは今回の裁判では確認しませんが」


「くっ……」



さすがに本人のサインが入った証拠が山ほど出てきては、反論する気もないようだ。



……めちゃくちゃ悔しそうな顔してるけどね。


まぁ確かに、まさかこんなに大事な書類を他人の家に置いてるなんて思わないもの。

だから絶対にバレないと思って安心していたんだわ。


でももっと言い訳をすると思っていたのに、あっさり受け入れるなんて意外ね。

そこは伝統ある公爵家のプライドかしら?

無様に言い訳する姿は見苦しいからね。


罪を認めたリクトール公爵は……爵位剥奪、さらに国外追放かしら?



何も言い返さず、仕方なく闇市場運営を認めようとしているリクトール公爵に、エリックがさらに詰め寄る。



「これで終わりではないですよ?」


「……なんだと?」



その時、ジェイクが会場に入ってきた。

貴族達からは「誰だ?」という声が上がっている。


ジェイクを見たリクトール公爵は、その赤い瞳を見つめながらボソッと呟いた。



「お前は……Jか?」



おそらく仮面をつけていないジェイクの素顔を見るのは初めてなのだろう。

リクトール公爵の呟きを無視して、エリックが話を続ける。



「元ボアルネ邸をはじめとする、貴方の領地にある不審な没落貴族の屋敷を教えてくれたのが彼です」


「こんな平民の言うことを間に受けたのか!?」


「はい。実際に証拠は見つかったではないですか。

彼の情報の信憑性は非常に高いという結果です。

……ではここからは、私ではなくルイード様へと代わらせていただきます」


「ここから……?」



ルイード皇子が立ち上がり、先程までエリックが立っていた場所まで移動した。

エリックは後ろに下がり、カイザやイクスと並んで静観する側になっている。



「闇市場の件でこの裁判が終わりだと思ったのか?

まだ、貴方には別の疑いがかかっている事をお忘れなのかな?」



少し悪どさの感じるルイード皇子の爽やかな笑みに、私まで寒気がしてしまった。

リクトール公爵はポカンとした顔でかたまっている。



もしかして、私の誘拐の件も!?

でもあれは証拠不十分でどうしようもないって言ってなかった!?



「先日の巫女誘拐事件の首謀者として、貴方の名前が挙がっている」



会場に大きなざわめきが起きた。

巫女の誘拐については知れ渡っていたが、犯人は隣国の窃盗団としか言われていなかったからだ。



「それについては証拠など何もないはずだ!

他の人物が首謀者だという証拠はあるのだぞ!?

私ではない!!」


「リクトール公爵がグリモール神殿の大神官や隣国の窃盗団……それも今回の誘拐にのみ関係している若い連中と会っていたのも、全て把握してます。

日時、場所も言えますし、貴方と窃盗団のやり取りも裏が取れてますよ!」



ジェイクが軽い調子で答えると、リクトール公爵がギロッとジェイクを睨んだ。



「それは全てお前の憶測だ!!

お前のような平民には証言の価値などないのだ!」


「何か誤解をなさっているようですね?」



罵声を放ったリクトール公爵に、ルイード皇子が少し笑いながら言った。

バカにされたはずのジェイクもニヤニヤ笑っている。



「彼は平民ではなく立派な貴族ですよ。

まぁ正確に言うと、貴族になったばかりですが……ね」


「なんだと!?」



ジェイクが貴族!? どういう事!?


私までもポカンとしてしまう。



「彼の情報のおかげで、巫女の救出が迅速に行われたのです。

国の巫女を救ったとなれば、その功績に見合った褒美が必要でしょう?

妹を救われた事に感謝して、コーディアス侯爵家が喜んで領地を分け与えてくれたよ。

……ちょうど領地に空きができたのでね」



あっ!!!

その領地の空きって……ドグラス子爵の!?

皇子とエリックが言ってた()()()って、ジェイクを貴族にする計画だったの!?


ま、まさかジェイクの証言を認めさせるためだけに……!?



リクトール公爵もこの展開についていけてない様子だ。

いつもの冷静で頭の回転の速い公爵の姿は、もうどこにもない。



「貴族だと……? だ、だからと言って、そんなすぐに彼の証言を信じるなどと……」


「リクトール公爵? まだおわかりではないようですね。

我々は一度に済ませようと今この話をしているが、もし巫女誘拐の件を後日改めて行うとしたらどうなるか……まだわからないのか?」


「…………」



誘拐の件を後日改めてやったらどうなるか……?

なになに!? どういう事!?

今日は闇市場の件だけでその罪を決めて、後日また誘拐の件で裁判を……ってあれ!?

も、もしかして……。



リクトール公爵も何かに気づいたのか、黙ってしまった。

その姿を見てルイード皇子がニヤリと笑う。



「わかったみたいですね。

そう。闇市場の件で、貴方は爵位を剥奪される。

つまり後日改めて裁判を起こした場合、平民なのは貴方の方なんですよ。

貴族である彼の証言を信じるのに、何か問題がありますか?」


「…………」


「異論はないようですね」



その日の裁判で、違法である闇市場運営に携わっていた事、他国との違法取引、人身売買に関わっていた事、そして国の重要人物である巫女を誘拐した罪によりリクトール公爵の爵位剥奪と処刑が決定された。



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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読ませ頂いてます。 近頃の異世界転生小説の中でも *楽しく *良い意味でハズレが無く *安心の王道 *読者目線で物語が進む(知的財産やチートが程よく外してある) *心地…
[一言] はぁ~やっと嫌な奴が一人片付いてスッキリですね! リクルート公爵は国外追放されて就職活動か!? って思ったら処刑でしたw そりゃそうですよね(`・ω・´)フンス! それにしても一度リクルート…
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