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110 ルイード皇子目線


王宮の中にある、貴族専用の特別警護室。

まるで貴族側を守るかのような名前の部屋だが、実際には逆だ。


要注意人物とされている貴族を部屋から出さないよう、厳重に警備されている部屋である。

リクトール公爵やサラ令嬢は、この特別警護室に滞在させている。

もちろん2人はかなり離れた部屋にしてあるが。



リクトール公爵のいる部屋に入ると、公爵は優雅にソファに座り本を読んでいた。



「おや。ルイード様。

そろそろ巫女と令嬢の調書は出来上がりましたか?

こちらも忙しいのでね、早く帰りたいのですよ」


「お待たせしてすまない。

巫女達の調書の前に、もう1つ公爵に確認したいことがあるのだが」


「なんでしょうか?」



リクトール公爵と向かい合うように腰をかけると、その反応をうかがうために公爵と視線を合わせた。



「闇市場について……何か知っていますか?」



闇市場という言葉を聞いて、一瞬だけ公爵の瞳が揺らいだ。

けれどその揺らぎはすぐにおさまり、細長い目をさらに細くさせながら笑顔で返事をした。



「闇市場ですか。噂でそのような言葉を耳にした事がある……くらいですね。

その闇市場がどうかしましたか?」


「リクトール公爵が運営をしている……という情報が入ってきている」


「ほう……。いやぁ、何故そこで私の名前が出るのか全く思い当たらないですね」



さすがはリクトール公爵だ。

もうその表情には余裕の色しか浮かべていない。



「身に覚えがないという事ですか?」


「そうですね。全くもって事実無根です。

まさかルイード様はその話を信じていらっしゃるのですか?」


「それなりの情報が入っているのでね。

こちらとしても、調べない訳にはいかないのだ」



リクトール公爵は細長い目でジッと俺を見た後、フッと鼻で笑いながら頷いた。



「なるほどね。構いませんよ。

私の屋敷や別宅など、どうぞ好きなだけお調べください」


「!?」



どうせやらないだろうという挑発で言っているのではない。

本気で言っている。



……絶対に証拠は見つからないと思っているんだな。

やはり、公爵の屋敷や別宅には何も残していないのだろうか。


今日王宮へ来ることになったのは、公爵にとっても予定外だったはずだ。

それなのに急な自宅の捜索をされても問題ないなんて、本当にこの男はどこまで用意周到なんだ!?



「……ありがとうございます。

リクトール公爵の屋敷、別宅、関連した事業所など、全て調べても問題はないか?」


「ええ。構いませんとも」


「……わかった。

ではそちらの調査が終わるまでは、王宮に居ていただくぞ」


「まぁ仕方ないでしょうね。早めにお願いしますね」



リクトール公爵に焦りの色は全く見えない。



俺を毒殺しようとしていたレクイム公爵ですら、悪事を暴かれた時にはもう少し慌てていたというのに……。

この男は公爵の中でも格が違う。

気を引き締めてかからないといけないな。



そんな事を考えながら部屋を出ると、調査官のナギルが俺を待ち構えていた。

ナギルにはサラ令嬢の聴取を担当させている。



「ルイード様……」


「どうした?サラ令嬢は全てを話したのか?」



リディアには伝えていないが、実はサラ令嬢も肝心な事は黙秘したままだった。

大神官とリディアの誘拐について話をして契約を交わした……までは認めたのだが、その動機や詳しいやり取りについては何も言わない。


自分はほんの冗談のつもりだった、大神官とリクトール公爵が本当に実行させた、などとこちらも相手に罪を着せようとしているのだ。



「まだ何も。相変わらず、自分は冗談のつもりだったとしか言っておりません。

それから……その……」



ナギルは言いにくそうに目を泳がせている。



「なんだ?」


「サラ令嬢が……その、ルイード様と直接お話しできるなら、もっと話す……と言っています」


「はぁーー……またか」



実は聴取を始めてから何度も言われているのだが、ずっと断ってきた。

サラ令嬢は王宮のパーティーで初めて会った時から良い印象がない。

今回の件での怒りもあるし、できれば話などしたくもないというのが本音だ。



だがこのままでは(らち)が明かないので、一度顔を出してみるか……すごく嫌だけど。

リディアのためだ! そう思えばがんばれる! リディアのため!!



俺はそのままサラ令嬢のいる部屋へと向かった。

ナギルに案内され部屋に入ると、サラ令嬢が顔を輝かせて立ち上がった。



「ルイード様! いらしてくださったのですね!」



侍女の服から令嬢の服へと着替えたらしい。

巫女誘拐犯として疑いをかけられているものの、まだ確定するまでは一応貴族扱いをしなくてはいけないからだ。



「俺にならば話すと調査官に言ったそうだね?

早速聞かせてもらいたい」


「そんな来て早々……って、な、何故そんな遠い場所に座るのですか?」



サラ令嬢の目の前にはナギルを座らせ、俺は少し離れた場所にあった椅子に座っている。



「君の調査官は彼だからな。会話をするのは俺だから、気にするな」


「…………」



サラ令嬢はあからさまに不機嫌そうな顔をナギルに向けていた。

実は、どうしても目の前には座りたくないとナギルには伝えてあったのだ。



情けないが、サラ令嬢はどうにも苦手なんだ。

それに令嬢と2人で向かい合わせて会話をするのも、リディアに対して気が引けてしまう。

……俺が令嬢と2人きりになろうが、リディアは気にもとめないだろうけど。



自分で自分の心に打撃を与える。なかなかの攻撃力だ。



まだこれからだ! 落ち込むな!

今回の誘拐事件を解決できたら、リディアが見直してくれるかもしれない!

今は俺にできることをやるんだ!



「……それで? 婚約者の妹であるリディアを誘拐させようと考えた理由はなんだ?」


「誤解なんですっ!! 私は、巫女ともなればみんな手に入れたいと思うでしょうね〜って話しただけなんですっ!」


「……侯爵家令嬢が、何故わざわざ遠いグリモール神殿まで足を運んだのだ?

そんな会話をするためだけではないだろう?」


「リディア様がグリモール神殿で祭祀を行うと聞いたので、少しでも神殿に援助できればと申し出たのです。

その時に、リディア様のことが心配になってそのような会話に……」



サラ令嬢は気弱な女性のフリをしているらしいが、本性を知っている俺から見たら不自然極まりない。



「話しているうちに、大神官がどんどん話を盛り上げていって、巫女はきっと高く売れるとか、侍女として協力してくれればうまくいくとか言い出したのです!

私はてっきり大神官の冗談だと思って、その冗談に合わせて紙にサインしてしまったのです!

契約書をしっかり読んでいなかったのは、冗談だと思ったからです!!

ねっ? 私は被害者なんです!」


「…………」



契約書をきちんと読まずにサインした事を、冗談だと思ったからって事にするとは考えたな。

だが、いくらなんでもめちゃくちゃだ。


大神官と侯爵令嬢が、冗談で巫女の誘拐話をして盛り上がる? 冗談で契約書まで書く?

ふざけすぎている。

なのに本人は真面目に言っているのだから困ったものだ。


さて。この頭が花畑の令嬢をどうしようか。


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― 新着の感想 ―
[一言] 皇子頑張れー! リディアはぜひ皇子にご褒美を与えてあげてくれw しかしサラよりリクルート公爵の方が忌々しいですね (-益ー;)
[一言] ルイード皇子、可愛いです~。 癒し系だけど、なんだか徐々にしっかりしてきて頼もしくなってきていますね~。 109話ではキュンとさせられました~。 つねるとかって、可愛すぎる。 イクス…
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