102 婚約者との距離感
何故かお互い冷たい目で見つめ合っているイクスとルイード皇子。
前に王宮に滞在してた時にも思ったけど、この2人は相性が良くない気がする。
「私はリディア様の護衛騎士なので、離れません。
その窓から外にいる騎士に声をかけてここまで呼びますよ」
「彼らも捕まえた窃盗団を見張っているはずだから、わざわざ呼ぶこともないだろう。
先程も言ったが、この場には俺とカイザがいれば十分だ」
「…………」
「…………」
ああもうっ!!何でここで揉めてるのよ!?
あなた達味方でしょ!?
カイザ!!2人をなんとかしてよ!
……ってさっきボコった男達を縄で拘束中だわ!
皇子と騎士のバトルには興味なしかよ!
振り返ってカイザを見ると、部屋で気絶している窃盗団の男3人を縛り上げていた。
こちらの様子には全く気づいていない。
サラだけは、そわそわしながらこちらを見ていた。
もう!私がいくしかないか!
「イ、イクス!!
私なら大丈夫だから、サラを連れて行って」
バチバチ火花を出しまくっている2人の間に入り、そう言った。
イクスは私をチラリと見た後、ため息をつきしぶしぶサラの元へ歩き出した。
まったく!!
皇子の命令には早く従わなきゃダメじゃない!
…………って、あっ!!!
「ちょ、ちょっと失礼します」
ルイード皇子にそう言い、つないでいた手を離してイクスの後を追った。
彼の服を掴み動きを止め、自分の口を手で隠しイクスの耳元にコソコソと用件を伝えた。
「地下にワムルがいたの!!
王宮騎士団より先に彼を見つけて解放しなきゃ!」
皇子に聞かれたら大変なので、小声で話す必要がある。
イクスも私と同じように、私の耳元にコソコソと話してきた。
「それなら大丈夫です。
ワムル氏の事を伝えて、エリック様が地下に向かいましたから。
おそらく皇子や団長よりも先に地下に行っていたので、エリック様がなんとかしていると思います。
詳しい事はまたあとで」
そう言うとイクスはサラの元へ行き、少し怯えている彼女を連れて部屋から出て行った。
そうか!!ドグラス子爵の密輸の件とワムルの件、エリックに伝えたのね!
良かった!
さすがイクスだわ。
ホッとして後ろを振り返ると、ルイード皇子が少し不貞腐れたような顔をしている。
「……彼と何を話していたの?」
「え?えーーーーと……ちょっと、その、今回の事とは別件のことを……」
「そう……。
あの…………いや。あーー…………っ」
ルイード皇子は何かを言いかけて止めていた。
そして左手で顔を覆い、その自身の可愛い顔を隠した。
んん??
どうしたの?皇子……。
まさか、ワムルの事何か気づかれてる!?
「……ごめん。余計な詮索して。
彼にはどうしても嫉妬してしまって……」
え!?嫉妬!?
ルイード皇子が!?彼って、イクス!?
イクスに嫉妬!?
予想外の言葉に、ついポカンと皇子を見つめてしまう。
左手で顔を隠してはいるが、出ている部分や耳は真っ赤になっていた。
うわああっ!!!やばっ!!
可愛いすぎかよ皇子!!!
胸ギューーンと掴まれるわ!!!
ナデナデしたいっ!!
そのサラサラな髪をナデナデしたいわっ!!
いや、落ち着け私!!
「し、嫉妬って……。イクスにですか?」
私の質問を聞いて、ルイード皇子は顔を隠していた手を離してこちらを見た。
まだ顔はお風呂上がりのように赤く火照っている。
「……だって彼とはかなり仲が良いだろ?
さっきだって……あんなに顔近づけてコソコソ話していたし……」
そう言うとルイード皇子はふいっと視線を外した。
拗ねていらっしゃる!!!
なんだよもう。可愛さ100%かよ。
このキュンキュン皇子め!!
も、もう我慢できないっ!!
照れくさそうに視線を外している皇子の頭を、優しくナデナデする。
皇子は大きな瞳をさらに見開いて、バッと顔を上げて私を見た。
その勢いで、私の手は皇子の頭から離れてしまった。
「な……っ」
皇子の顔がさらに赤くなっていく。
あまりの可愛さに、つい「ふふっ」と笑ってしまった。
皇子は少し困ったような顔をしながら、払われた状態の私の手をそっと握ってきた。
気づくとすぐ近い距離に皇子の顔がある。
「一応、俺は君の婚約者なんだけど。
そんな事をしたら、距離を縮められても文句は言えないよ?」
いつもの可愛い皇子とは違う、少しだけ強引なセリフにドキッとしてしまった。
身長差はそんなにないというのに、皇子の手は私の手よりも大きくてゴツゴツしている。
動かそうとしても動かせないくらい、力もある。
可愛いアイドルのように思っていたルイード皇子は、リディアの1つ年上のカッコいい男性であり婚約者なのだ。
何故か今更にその事実を実感してしまった。
鼓動があきらかに早くなってきた。
ドッドッドッドッと早鐘を打っている。
ど、どうしよう。
年下の可愛い男の子感覚でいたから今まで平気だったけど、男性とのこの距離感は緊張するわ!!
「あ、あの。ルイード様……」
「リ……」
「よし!拘束終わり!
コイツら窓から投げていいかな?」
突然カイザの大きな声が割り込んできた。
私とルイード皇子の時が一瞬だけ止まる。
……そういえば、すっかり忘れてたわ。
カイザもいたんだった。
少女漫画のような乙女ちっくなムードが、跡形もなく消え去った。
ルイード皇子がカイザを白い目で見ている。
きっと私の顔もすんっとした引き顔になっている事だろう。
2人から白けた視線を送られて、カイザが少し慌てながら男を1人持ち上げた。
カイザが1番最初に気絶させた、若い男だ。
「え!?ダメですか!?
さすがに3人運ぶのはめんどくさいんで、投げ捨てようかと。
特にコイツは、俺が来た時にリディアを捕まえていたヤツだから……」
「思いっきり投げていい」
ルイード皇子が即答した。
カイザはニヤッと悪人顔で笑うと、窓の外に向かって叫んだ。
「おぉーーい!!
3人、ここから投げるぞーー」
言い終わったと同時に、持っていた若い男をポイっと窓から投げ捨てた。
外からはギャーギャー!ワーワー!言ってる声が聞こえる。
本当に投げ捨てた!!!えぇーーーー!?
外にいた人達は、受け止めたのかしら!?
それとも、地面に叩きつけ!?
こ、怖くて聞けない……。
「この屋敷にいた窃盗団は、騎士団が全員捕まえた。
護送用の馬車が到着するまで拘束して外に放置しているから、ワーワー言っているのは窃盗団の奴らと見張り中の騎士達だろう」
ルイード皇子がケロッとした顔で言った。
いやそんな冷静に!?
ルイード皇子もカイザも怖いんですけど!
……いや。この世界では普通なのか?
私にはまだ刺激が強いわ……。
その時、外からまた違った声が聞こえてきた。
なにか大声で叫んでいるようだ。
私とルイード皇子も窓に近づいて外を見ると、正装している男性が騎士達に向かってギャンギャン叫んでいた。
「お前達はなんだ!?何をしている!?
ここは私の屋敷だ!!うちの敷地内で何をしているんだ!?」
どうやらドグラス子爵が帰ってきたらしい。
家族で食事でもしてきたのだろうか、随分と遅い帰宅だ。
祭祀で巫女を見て、家族で楽しく食事を済ませ、家に帰ってきたら別棟の周りは騎士団と捕まった窃盗団でガヤガヤしていた……となったら、それは混乱するわよね。
もちろん同情なんてするわけないけど。




