101 純粋無垢な爽やか皇子vsひょろひょろキリ目公爵
「……情報ならばここでお話ししましょう。
わざわざ王宮にまで行く必要はないでしょう?」
リクトール公爵は王宮へ行くのを拒否した。
皇子の命令ともとれる提案を断るなんて、王宮を敬っていない事がわかるわね。
それともルイード皇子がまだ若いからってバカにしてるのかしら!?
断られた皇子は怒る様子もなく、笑顔のままだ。
といっても目は笑っていないが。
「王宮に来ないという事は、調査書の記述は全て巫女とサラ令嬢の意見のみで完成させても構わないという意味でいいかな?」
リクトール公爵がピクリと反応する。
私とサラも思わず目を合わせてしまった。
「……調査書?
私の持っているサラ令嬢が首謀者である証拠などは、もちろん書いてくださるのですよね?」
「リクトール公爵からいただいた情報はもちろん記入しますとも。
ですが彼女達にも、実際に起きた出来事を事細かに聞く予定です。
当事者ですからね」
「サラ令嬢は首謀者でもありますし、ウソをつくに決まっています。
それをそのまま調査書に書くのですか?」
サラがギロッとリクトール公爵を睨んだが、口は出さずに黙ってやり取りを見ている。
皇子と公爵の会話には割り込まない……と、きちんとわきまえているらしい。
ルイード皇子は顔色を変えないまま話を続けた。
「彼女達にはこのまま会話もさせない状態で王宮まで連れて行き、2人バラバラに話を聞きます。
2人の話が全て一致していたら、それは十分信憑性が高いと言えます。
だって、被害者である巫女のリディアがウソをつく必要はないですからね」
爽やかに微笑むルイード皇子。
いつもなら暖かい空気になる笑顔のはずが、今はブルッとするほどの寒気を感じさせている。
これ……本当はすごく怒っているのよね?
顔や言葉に出さないよう、振る舞っているんだわ。
さすが皇子!!
……態度には少し出ちゃってるけどね!
「…………」
初めてリクトール公爵が無言になったわ!!
皇子!!もう一押しよ!!
「調査書が完成したら、サラ令嬢の裁判が行われるでしょう。
もし……他に首謀者なる疑いのある者がいた場合、その人物も裁判に呼ぶ事になります。
リクトール公爵ならよくご存知ですよね!
裁判に強制召喚された貴族が、周りからどのような目で見られるのか……」
おぉ!!それは脅しね!!
純粋無垢な顔してひょろひょろキリ目公爵を脅しているのね!
いいぞもっとやれ!!
それにしても、この小説の中では裁判に強制召喚されるのがそんなに不名誉なのかしら?
今まで何を言ってもすぐに論破してきたリクトール公爵が、おとなしくなったわ!
リクトール公爵はキレ長の目をさらに細くして、無言のままルイード皇子を見つめている。
いかにも狡猾そうな40代の公爵と、アイドルのように可愛い16歳の皇子が言い争いしている様子は、まるでドラマのワンシーンのようだ。
いや。そんなドラマ観たことないけどね!
異世界小説や異世界漫画は読んだ事あるけど、そのうち異世界ドラマとかやってくれないかしら。
そんなくだらない事を考えていると、リクトール公爵が口を開いた。
「なるほど……。巫女様とサラ令嬢が、私を首謀者に仕立てあげようとする可能性がある。
その疑惑で強制召喚されるくらいなら、事前に調査書の内容を確認できた方が良い……という訳ですね」
「もしリクトール公爵に異論があるなら、調査書が完成する前に訂正してもらった方が良いかと」
「それをするためには、このまま一緒に王宮へ……という事ですか」
そう言いながら、リクトール公爵は皇子の後ろに立っているカイザと騎士団長をチラリと見た。
リクトール公爵は、皇子と騎士団長が到着した時安堵していたわ。
カイザの暴走が止められたから。
でも、目の笑っていない皇子の態度を見て思ったはず……。
ここで拒否した場合、すんなり帰れるのか?って!
今の皇子の様子なら、爽やかな顔して「拒否するならここで始末しますか!」なーーんて言い出しても不思議はない。
後ろのカイザや騎士団長も、あきらかにリクトール公爵に敵意を向けているし。
私の目の前にいるイクスだって、ずっと冷たい視線を浴びせ続けている。
コイツらがすんなり帰すとは思えないわよね……。
私と同じ考えだったのかはわからないが、リクトール公爵は開き直った態度に変わり、王宮へ行くと言った。
「いいでしょう。
何も証拠のないデタラメなど書かれては困りますからね。
王宮へと行きましょう」
やった!!!
純粋無垢な爽やか皇子が、ひょろひょろキリ目公爵に勝ったわ!!
皇子がにっこりと笑った。
先程よりは少し明るい笑顔だ。
「ご協力ありがとうございます。
ルビウッド団長。
歴史あるリクトール公爵家の方ですので、それはそれは手厚く厳重に警備しながら王宮へとお連れしてください」
……リクトール公爵を警備して守れ。みたいな言い方してるけど、リクトール公爵が逃げられないように馬車の周りを騎士団で囲めって意味よね。
やるわね、皇子!
可愛い可愛い思っていたけど、さすがこの国の第2皇子だわ!!
ルビウッド団長が、リクトール公爵を連れて部屋から出て行った。
ふぅ……と一息ついたルイード皇子が、クルッと私の方を向き近づいてきた。
「リディア……。無事で良かった」
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
皇子は私の左手を両手で包み込み、自分の顔に近づけてぎゅっと握った。
輝くネイビーの大きな瞳に見つめられる。
皇子は何故かとても苦しそうな顔をしていた。
「謝るのは俺の方だ。守ってやれなかった。
……怖い思いをさせて、ごめん」
「ルイード様……」
皇子はパッとイクスの方を向き、それからサラを見た。
私の左手は、皇子の右手に握られたままだ。
まるで手をつないでいるかのよう……って実際つながれているのだけど。
「イクス。サラ令嬢を、外にいる騎士団のところまで連れて行ってくれ。
重要参考人だ。逃げられないように頼むぞ」
サラが一瞬ビクッと反応した。
『重要参考人』という言葉が怖いのだろうか。
皇子から頼まれたイクスは、何故かすぐに返事をしない。
視線は皇子……というよりも、私とつながれた手を見ているようだった。
「……私はリディア様の護衛騎士ですが」
「知っている。
だがこの場には兄のカイザがいるし、問題ない」
「…………」
な、なんなの。この空気!?
見えない火花が飛び散ってるかのようなバチバチ感なんですけど!?




