10 イクス目線
俺はリディアという女が大嫌いだ。
濃い化粧にキツイ顔つき、派手なドレスに派手な髪型。
性格の悪さが全て外見に出ている。
兄であるエリック様を慕い、婚約者のいる身でありながらいつも俺の腕を掴んでは胸に押しつけ、上目遣いで見つめてくる。
吐き気がする。最悪だ。
念願の騎士となり、これから強くなるために憧れの騎士団長から指導してもらえるところだった。
この女に気に入られ、突然専属の騎士にされるとは。
毎日毎日同じテーブルでの食事を命令され、眠る前には抱擁を強要された。
添い寝をさせられた事だってある。
俺の服を脱がせようとしてきたから、慌てて部屋から逃げ出した。
鳥肌がたつ。気持ちが悪い。
けれどここを辞めたら、きっともうどこにも雇ってもらえないだろう。
この女がそれを許すはずがない。
日々の地獄に耐えていた時、この女が頭を強く打ち気絶をした。
大きな癇癪を起こした後だったので、誰もが心配よりもホッとしていた。
このまま目覚めなければいいのに……。
そんな願いも虚しく、数時間で女は目を覚ましたらしい。
メイドに促され、今日も悪魔の晩餐へと向かう。
女と目を合わせないまま椅子に腰かけると、女が驚いていた。
そして一緒に食事をしなくていいと言う。
どういう事だ?
今度は何を企んでいる?
だがこれは俺にとっては願ってもない事だったので、すぐに席を立ち女の後ろに移動する。
女は俺を見ようともしない。
風呂に入り休むと言っているのに、俺を求めてはこない。
なんだ?
これは俺からいけという事なのか?
このまま部屋を出てこの女の機嫌を損ねたら、どんな要求をされるかわからない。
俺は自分から近づき、聞いてみた。
「抱きしめなくてよろしいのですか?」
「はぁ!?だ、抱きしめ!?」
女は一瞬で顔を真っ赤にして、慌てて一歩ずつ後ろに下がっていく。
なんだ、この反応は?
今まで見た事のない女の態度が気になる。
女はしばらく考えこんでいたようだが、
「もうこれからは抱きしめなくて大丈夫よ!」
と言ってきた。
一体どうしたんだ!?
頭を強く打って、おかしくなったのか!?
いや……正確には普通の人間になったのか?
それなら……と部屋から出ようとする。
呼び止められると思っていたが、結局女からは何も言われないまま部屋から出る事ができた。
気分がスッキリするはずなのに、なにかが気になって少しモヤモヤしている。
どうした、俺……。
ずっと願っていたことじゃないか。
早く俺に飽きてくれないか、と毎日毎日願っていた。
喜ぶところだろう!?
よくわからない感情を抱えながら夜を過ごした。
次の日、昨夜同様食事を断ってくれるのか……そう考えながら女の部屋へ向かった。
メイはなぜかいつもより上機嫌で、たまに俺の方を見てはうっすらニヤニヤしている。
……なんだ?
その疑問は女の部屋に入ってすぐにわかった。
そこにいたのは、昨日までの俺が知っている女ではなかった。
サラサラの金色の髪の毛に、真っ白な透き通るような肌。
パッチリと開いた大きな薄いブルーの瞳には、長い金色のまつ毛がキラキラしている。
今まで着ているのを見た事がないような爽やかな色のワンピース姿は、まるで本物の天使のようだった。
だ、誰だ!?
まさか……あの女なのか!?
全然違うじゃねーか!!
化粧してない方が可愛いっておかしいだろ!!
「お美しいでしょう?」
ニヤニヤ顔のメイの質問に、
「そうですね。とてもお美しいです」
と正直に答えてしまった。
女……いや。リディアお嬢様の顔がみるみる赤くなっていく。
なんだよこれ……。
可愛いすぎるだろ……。




