表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/128

1 義妹をボコボコにしたい


「あーー義妹ムカつくーーー!!」



そう叫びながら、先月30歳になったばかりのお姉ちゃんはテーブルをドンッと強く叩いた。


昨年結婚して家を出て行った姉は、旦那が出張で留守になるたびに実家に帰ってくる。

そして毎回義妹の愚痴を言うのがお決まりになっていた。


ブラコンである義妹は、大好きな兄を奪われた事を根に持ち…結婚前からずっと姉に嫌がらせをしてくるのだ。

姉のお気に入りの服やバッグを勝手に捨てたり、

夫婦の写真を全てビリビリに破いたり、

姉の嫌な噂を近所に流したり、

週末になるたびに家にやってきては夫婦の時間の邪魔をする。


バカな義妹の話は第三者からしたら面白く、愚痴を聞くのは嫌いじゃなかった。



……面白いなんて、姉には言えないけどね。



「で、今度は何があったの?」



イライラしている姉とは反対に、私の顔はニヤニヤを隠し切れていなかった。

独身で28歳にもなれば、人の不幸話はとってもあま〜い蜜なのである。



うん。性格悪いな、私。



「この前旅行に行くって話、したでしょ?」


「あぁ…。結婚1周年記念って言ってたやつ?

奮発してお高いホテルを予約したって言ってたよね?」



1ヵ月前に嬉しそうに報告してきた姉の顔が浮かんだ。


そういえば、先週行ってきたんだっけ?



「その旅行にね……義妹がついて来たのよ!!

自腹でよ!?

部屋は別々だったのに、1人じゃ寝られないって夜に部屋入ってきて……。

旦那と同じベッドで寝たのよ!?

信じられる!?アラサー兄妹が!!」



姉はまたまたテーブルをドンッと叩く。

顔を赤くして怒り口調で話しているものの、涙目だ。

よほど悔しかったのだろう。



「はぁ……。それはないわーー!!

義兄さんも、結構なシスコンよね」



私が共感してあげると、姉はそう!そう!と言いながら嬉しそうな顔で笑った。



それにしても、1周年の結婚記念旅行に義妹がついて来るなんて聞いた事がない。

それを許してしまう義兄も、遠慮なく夫婦の部屋に入ってくる義妹も、どっちもありえない。

正直言って、キモ!!

私だったら帰ってきちゃうかも。



義妹への愚痴はまだまだ止まらない。

聞けば聞くほど、とんでもない妹ね!と呆れるばかり。



でもね。

もっと聞いてあげたいところだけど……私、明日も朝から仕事なのよね。



時計を見ると、すでに0時をまわっている。

車で来ている姉はこのまま泊まるのか、帰るのか。

少なくともあと10分くらいでは終わらないだろう。



薄情な両親は、姉を私1人に押しつけて早々に寝てしまったし。

なんとか今すぐに姉を帰らせる事はできないかな……。



私の頭はすでにどう話を終わらせるかでいっぱいになっていた。

すると、姉が突然物騒な事を言い出した。



「はぁーー……。一度でいいから、あの義妹をボッコボコにしてやりたいわ〜」



姉は運動部で鍛えた腕を前に突き出し、拳をぎゅっと握ってみせる。

昔から力が強く、女とはいえ殴られたらかなり痛そうだ。



ボッコボコって……。

義兄さんの前でそんな事言ったら、あのシスコン男はどんな顔するかしら。


想像してみただけでクスッと笑ってしまう。



「たしかに義妹をボッコボコにできたらスッキリするでしょうね!!

でも、直接殴るよりも間接的に攻撃したいわ!


だーい好きな義兄さんに暴言吐かれるとか……。

家から追い出されるとか……。

社会的に抹殺してやるとか……」



…………ん?

なんか、どこかで聞いた事あるような話ね。

どこだっけ……?


自分の台詞に既視感を覚えた。


ドラマ……?小説……?



姉は「社会的に抹殺……いいわね……」と、ブツブツ言いながらニヤついている。



あれ?本格的に考えちゃってる?


……うん。聞かなかった事にしよう。

それより、なんだったかなぁ?



突然ある小説が頭の中にパッと浮かんだ。



「あっ!」



大声でそう言いながら両手をパン!と合わせた。

思い出した!!


姉はビクッと身体を震わせて、私を見た。



「な、なによ。ビックリした……」


「あったの!!義妹をボッコボコにする話!!」


「話……?」



姉はなに言ってんの?って顔をしながら聞いてきた。



そうだよ!!

あの小説を読んだら、少しはスッキリするんじゃないかな?


なにせ、義姉に嫌がらせをしてくる悪役令嬢が悲惨な結末を迎える物語なんだから!!

悪役令嬢と義妹を置き換えて読むだけで、スッキリするはず!!



閃いた私は、早速小説の内容を姉に伝えた。



「そう!小説なんだけどね、主人公が嫁いだ家にもムカつくブラコン義妹がいたのよ。

その女も主人公にたくさん嫌がらせをしてくるの」


「私と同じね……」


「でもね、旦那である長男も、もう1人の兄である次男も、義妹のお気に入りの護衛騎士も……さらには義妹の婚約者まで!!

みーんな主人公の事を好きになっちゃうのよ!!

逆ハールートのような小説なんだけど……」


「ぎゃ、逆ハー……?」



少し興奮気味の私に対して、お姉ちゃんはついてこれてないみたい。



もぉーーここからがおもしろいのに!!

逆ハーも知らないわけ?

まぁそれは後で教えてあげることにしよう。



「それでね、周りの男達から見放された義妹は、主人公への嫌がらせを理由に家から追放されるの!

だって階段から落としたり、食事に虫を入れたり……やりすぎだったからね。


でもそれで終わりじゃなくて。

追放されて怒った義妹は、主人公を刺し殺そうとして捕まって、処刑エンド!!

どう!?読んだらスッキリするんじゃない?」



目をキラキラさせながら提案する私を、同じようにキラキラした目で見つめ返してきた姉。



「なによそれ……。

めっっっちゃおもしろそうじゃない!!

その処刑された女と、うちの義妹を置き換えて読めばいいって事でしょ?」



よしっ!!食いついた!!

これで小説を読むためにすぐ帰ってくれるはず!



思わずニヤリと笑ってしまう。



「ちょっと……なんていうタイトル?」



姉はすでにスマホをいじり出している。

早速読む気満々らしい。



「『毒花の住む家』よ!!

今日はお義兄さん出張でいないんでしょ?

家でゆっくり読みなよ」


「うん!!そうするわ!!じゃあね!!」



姉は椅子から立ち上がり、荷物を持って足早に帰って行った。



やったーーー!!

お姉ちゃんを追い出せたわ!

昨日はあまり寝てなかったから、今日こそはゆっくり寝たかったのよね。



すでに寝ている両親の寝室を通り過ぎ、自分の部屋へ向かう。

ベッドに腰かけると一気に眠気が襲いかかってきた。



あぁ……眠い……。

本当あの小説の事を思い出せて良かったわ。

あれはかなり面白かったから、お姉ちゃんも夢中で読むはず。


出てくる男性キャラが、みんな一途でカッコいいのもポイント高いのよねーー。



「ふわぁ……」



大きなあくびが出た。

どんどん頭がぼーーっとしてくる。



そういえば、あの小説のあの悪女である妹……なんて名前だったっけ……?


たしか……リディア……だったような……。

誰からも愛されず、みんなに見放されて処刑された……不幸で……可哀想な……女の子……。



そこで私の意識はプツッと切れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ