独白
私にとって、君がどんな存在であり、どんな目的でココにいるのかというのはさほど重要な問題ではない。
あえて言うならばどうでもいいのだ。私はただ独白するために、そう人間の宿命とも言える自己満足な欲求を満たすためにここにいる。
だが、君の事をどうでも言いと公言している私は、ある意味信頼にたる他人だと思わないだろうか。もしそのまま数分の間私に人生を預けてくれるというならば、つまらない話でよければ聞かせてあげよう。
その日は、とてもすごしやすい日であった。大多数の人間にとっては、春先の柔らかな日差しの中、人通りの少ない川原を歩くということは少なからず安らぎを与えてくれるだろう。
だが、その人物にとっては違ったようだ。まるで今にも折れてしまいそうなはかなげな人影が一人、いや、既に折れてしまっていたのかもしれない。彼女の心はすでに粉々にまでくだかれていた。余命わずか数ヶ月、悪性の腫瘍に治療法はいまだ見つからず、後は白い無機質な部屋で死を待つだけの人生。それでも、最初は僅かな人生を精一杯生きようと思う心があった。
しかし、その思いも数日前に砕かれた。彼女が心の支えにしていた人物。
自分の人生の伴侶として決めていた。相手も余命僅かな自分のために尽くすと決めてくれた。
その彼は、もうこの世のどこにも存在しない。
いまだ残っているのは、奇跡的にのこった彼の左腕。そして最後まで握り締めていた彼女との約束の指輪。
彼女の元には指輪だけが届いた。そして、彼女の心の支えとなるはずだった指輪(約束)は、無残にも彼女の心を切り裂くこととなった。
川の流れは穏やかだった。十分な深さと広さを持った河川は緩やかな流れに春を乗せ、下流へと運んでいた。
水面に写った顔を見つめて、彼女は苦笑した。あまりに無残にかき乱された髪。ふさがりきっていない頬に伸びる爪のあとが痛々しい。
道行く人々が避けて通るはずである。まだ幽霊に出会ったほうがましだったかもしれない。
このまま進めば楽になれる。病室で失意に沈んだまま朽ち果てるより、自然の流れに身を任せて逝ってしまえたら・・・
そう思って顔を挙げた瞬間、彼女の体内を風が通り抜けた。
例え幽霊だとしても、僅かな生を放りだしてでも会いたかった。その彼が笑っていた。
既に水に片足を入れていた彼女を、彼はそっと押し戻した。
質量も持たないはずの彼の腕は、それでも力強く、暖かく、それでいて風が凪げば消えてしまいそうな儚さをもっていた。
彼の声が頭に呼び覚まされる。以前のまま、少し意地悪そうでやさしい声。
――僕はもう先に行っている。多分もうしばらくしたら君とも会える。
――だから、もう少しだけ・・・その世界で生きていて欲しい。
――僕が味わうことが出来なかった季節を、感じていて欲しい。
不意に抱きしめられ、彼女は呆然と立ち尽くす。
背中には彼の右腕の感触、もう少し、もう少しだけでいい。
死ぬことはいつでもできる。でも、この世界にいられるのはあと少しの間だけだから。
ふと気付くと、彼の姿は消えていた。背中に回されていた腕の感触もなくなっていた。
――あぁ、何で私も抱き返さなかったんだろう、それに最後にキスぐらいしていってもいいじゃないか。
春の訪れを感じさせる暖かい風に乗って、タンポポの綿毛が彼女の前を飛んでいった。
そういえば、お母さんに酷いことを言ってきてしまった気がする。ココまで来たときの記憶はあやふやだけれど。とてもたくさんの人に迷惑をかけてしまった気がする。
一度謝りに戻ろう。それから、遣り残したことを出来るだけたくさん。
たくさんするのだ。彼にあったとき、多くの思い出話が聞かせられるように。
・・・おもしろくなかっただろう?
それでも、私はとても満足した。エゴだと言われてもかまわない。
やりたいことをやった。最後に思い残すことは少ないほうがいい。
君ももし、遣り残していることがあるなら、今のうちにしておいたほうがいい。
余計なお世話だったかな?それなら、なおさら良かった。
もう会うことも無いだろう。それじゃ、貴重な人生の一部を分けてくれて
どうもありがとう
こういう事を書くと不愉快な思う方もいるでしょう。
そういう方は遠慮なく罵倒してください。
もし、何もかも嫌になったら、一度全て投げ出して生きてみるのもいいと思うんです。
私の場合は、家を売っぱらって北海道にと思っています。
牧場の牛小屋に勝手に住み着いて、あわよくば働かせてもらおうなんて考えてますw