05 魔法の鞄
不定期更新ですよ。
「てことは本物!?」
渡界者に対してバリウッド俳優にでも会ったかのように驚き歓喜するチィ。
チィは渡界者が出てくる話しが大好物のようで、キョウが灰熊を解体している間に呼び方が『クライさん』から『クライ様』に変わっていた。
さて、キョウの手腕により灰熊が部位毎に切り分けられていく。
マークスはキョウが解体している間、切っ先を探していた。
折れた剣の切っ先だ。
長年使っていた相棒。
飛んでいった方を探すが見つからない。
チィに肉が焼けたと呼ばれた。
腹ごしらえをしてから、もう一度探す事にして一旦戻り……戻り……。
…………炭と灰熊の脂まみれの折れ剣を見たら諦めがついた。
そう、調理器具などはないのでマークスの折れ剣が鉄板代わりに使われていたのだ。
チィの犯行である。
渡界者であるクライの役にたちたいと、鉄板の代わりになるものを探し、見つけたのがマークスの折れた剣だったのだ。
折れた剣、もう捨てる物と勝手に判断し、マークスに許可取ることなく実行した。
まぁ、クライの胃袋にあるから探しても見つかる事はない。
これで良かったのだ。
それはそうと、これからの旅路で調理器具は欲しい。
どこに行けば買えるのか訪ねると、街に戻れば店があるとの事。
モノによるが一通り揃えるなら結構するので購入を考えているのであれば、灰熊は売る事を勧められた。
火の通りの悪い剣、肉は火が通り易いように薄切りだ。
焼き始めは獣臭さが立ち昇るが、充分に火を通せば気にならなくなった。
やはり、肉は裏切らない。52点。
塩胡椒があれはもっと旨いのに、残念だ。
調理器具もそうだが、調味料も欲しいな。
肉の薄切りはナイフを持っていたキョウに任せている。
1人で全員分切るのは重労働だ。
一通りの部位を味見をし、3人が満足したところで食事はお開きにさせてもらった。
俺は?
木々に虫、剣に熊、結構な量を食っているが満腹感はないな。
というか、尿意も便意も来ないけど大丈夫か?
毛皮や骨をキョウの持つショルダーバッグにしまっていく。
明らかに骨の体積がバッグの容量を超えていたが、聞くと魔法で鞄の中が拡張されているらしい。
これも街に戻れば売っているようだ。
篦棒に高額で。
キョウの持つバッグは灰熊なら2頭が限界の容量。
それでも金貨10枚はするという。
と言われたが、どうしよう金貨の価値がわからん。
灰熊の売却額で考えるか。
このザコならいくらでも狩れそうだし。
臓物はチィが水魔法で中をしっかり洗う。
繋がった臓物をホースに見立て、食道から下に向かって水を流し込んでいく。
慣れた手つきだ。
様子を見ているとマークスに話しかけられた。
「いやー、クライさんも演技上手いね」
「演技?」
「乙女の夢を壊さない様に合わせてくれたんでしょ?」
「乙女の夢?」
「チィってば、渡界者に会うのが夢だったんすよ」
「そうそう、チィに合わせるのはいいですけど、他の人に渡界者とは言わない方がいいですよ?」
いつの間にか逆サイドはキョウがいた。
マークスは好青年って感じで、キョウは美少年。
この状態は両手に蜜蜂とか言うんだっけ。
普通に両手に花が良かった。
いや両手に肉のがいいな。
「あー、確かにな」
「どうしてだい?」
「他の世界なんて在るわけ無いだろ?」
「まぁ……概ねそんな理由です」
完全否定のマークスに対し、キョウは含みのある言い方をする。
「頭イカれてるって思われたくなければ、止めときなって」
「そうだね。そうしよう」
キョウは、マークスの言葉を借り、クライを渡界者扱いしないようチィを諭した。
ついでに、『様付け』を禁止していた。
「んで、ホントの所は?」