君の手
奇跡は信じるに値する。
そう思っても構わない。
ひとときの予感で、通路に響く足音も転調する。
空腹の我儘にも寛容なところを見せられる
蕩ける魅惑か、高まる野性か、君が選べばいい。
対価は言われるままに。
物乞いの運命はそのままに。
原因と結末の互換性もあるがままに。
ひとときの予感に酔わされて、賑わう通路を選んで歩く。
好きなものを食べろ。
欲しいものは、言葉にするな。
貪ったその後に、食欲を掻き立てる臭いのする骨だけ残る。
迷惑は百も承知で無様に笑え。
値札の色が染み付いた指先を下品に舐めろ。
今は誰も咎めない。
今なら誰も気づけない。
満たされた腹を自慢気に揺らして見せて。
君のこめかみに潜伏する後ろめたさは、振り返るたびに捨てていけばいい。
これは拡大解釈された予知夢に過ぎない。
原因と結末が君の手を引っ張りあう。
退場願う正義など、こちらから願い下げだ。
擬装した不安を狙撃するのは、か弱い雨。
ひとときの予感がか弱い雨に打たれて頭部を垂れる。
まただ、欲しいものを求めると口の感覚は鈍くなる。
ひとときの予感が消えないうちに。
忍び足の結末に追いつかれないうちに。
君の手を引っ張り走る。
絡み付く雨に諦めないうちに。
撃ち抜かれた偽造の奇跡を君に見抜かれないうちに。
君の望みを知る前に、君の手を掴んで走る。