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サーヤの秘密

「うあああん!!ヒックッ!うえええ!」





赤ん坊の泣き声が聞こえる。





「はいはい、どうしたの〜?」


どこかのんびりとした女性の声がして、俺は誰かに抱き上げられた。

ゆっくりとあやすように揺れるその腕の中は、酷くホッとする。俺が小さく息を漏らすと、それに比例して赤ん坊の泣き声も徐々におさまっていった。





あぁ、この赤ん坊は、俺か。

…転生、したんだな…俺。





俺は妙に落ち着いて納得すると、すぐに別のことが気になり始める。








すると、この女性は一体誰だ?








状況的に母親っぽいけど、神様から聞いた世界観的に乳母の可能性もある。

俺は短い腕を伸ばして、すぐ側にある彼女の頬に触れた。あ、結構すべすべで気持ちいい…って、何考えてるんだ俺。

彼女はくすぐったそうに顎を引くと、楽しげな声で笑った。

「ユアル、君といると退屈しなさそうだな。これからが楽しみだよ。」

…んー、なんか乳母ではない感じ?じゃあ母親か…?

とりあえず、俺の名前はユアルというらしい。

「君を捨てた親に感謝すれば良いのか、憤るべきなのか、わからなくなってしまったよ。こんなに可愛い君を捨てるなんて信じられない。まぁ、おかげで君に出会えたんけどね。」

おおぅ、なんか衝撃的なことを言われたな。

俺、転生早々捨てられていたらしい。

でも、不思議なほど悲しくないなぁ。親の顔を知らないからかしら。

「ー ユアル。君はこの私が守ってみせる。だから、きっと真っ直ぐ育ってくれよ…。」

祈るように呟かれた、彼女の誓い。

俺はそれに応える為に、両腕を広げて、「あいっ!」と元気よく叫んだ。
















それから10年。

俺は10歳になっていた。

「ユアル〜、ちょっと調達頼んでもいいか?」

俺の母親がわりのサーヤが、ひょこっと顔を出す。どこか申し訳なさそうなのは、俺が昼メシを作っている最中だからだろう。

子供に料理をさせるなんて!と怒る人もいるかもしれない。だが、少し待ってほしい。このメシ作りは、元々俺が提案したこと。むしろサーヤは反対していた。

俺がある理由の為に、無理矢理この案を押し通したのだ。その理由を前に、サーヤは成すすべなく敗北した。

そう、サーヤはたった一言言っただけで折れた。











「お前料理できないじゃん」って。











膝をついて悔し泣きしてるサーヤはさすがに可哀想だったけど、これだけは譲れない。

誰だって、毎朝ベチャベチャのパンを食いたくはないだろう。

よって、メシ作りは絶対に、俺の担当なのだ。









話を戻そう。









「わかった。で?何買ってくればいいの?」

俺が料理の手を止めて 聞くと、サーヤはパンッと手を合わせながら懇願した。

「レ、レイユの花…。」

その言葉に、俺は思わずため息をつく。

「昨日商人が来てたじゃん。」

「そうなんだけど、忘れてたの!」

拗ねたように唇を尖らせながらも、サーヤは「お願いっ!」と俺に頼み込む。

その様子に、俺はもう1度ため息をついた。

レイユの花は、森の奥深くにしか咲かない花だ。別に希少なわけでもないし、森の奥に潜れば普通に手に入るのだが、いかんせんそこまでの道のりが険しい。レベルの高い魔物も稀に出るし、一般人が直接採取しに行くのは非常に難しい。

そこで人間たちは、ある対策を講じた。

それが、商人だ。

魔法の力や身体能力の高い人間で数人のチームを作り、レイユの花などの採取するのが難しい薬草を取りに行く。そしてそれらを売って得た利益を、チームで山分けするというシステム。

つまりこのサーヤは、月1でしか来ない商人達に大切な薬草を買い付け忘れ、家事で忙しい俺に危険な薬草採取を頼んでいるというわけだ。

ため息をついてしまうのも仕方がないだろう。

しかも、サーヤが行くというわけにもいかないのが辛いところ。











サーヤには、ある秘密がある。











それは、サーヤがエルフだということ。










エルフの特徴は、まず耳が尖っていること。

そして、太陽の光を集約したかのような、キラキラと輝く黄金の髪。透き通るような白き肌に、深い海色の瞳。

そして何よりも、世俗離れしたその美しい造形。

エルフの全ての特徴に当てはまるサーヤは、その美しさから、エルフを喉から手が出るほど欲しがっている人間達の恰好の獲物だ。

最近、人攫いならぬエルフ攫いが森を徘徊しているので、勿論、みすみすサーヤを捕まらせるわけにもいかず。サーヤは外に出られないというわけだ。








「はぁっ…。オーケー、わかったよ。レイユの花、採取してくる。何本ぐらい欲しいの?」

「!ありがとう!…え〜っと、7、8本かな…?」

「わかった。じゃ、ちょっと鍋見てて。吹きこぼれそうだったら火、止めてくんない?」

「わかった!」

サーヤに鍋任せるとか不安でしかないんだが、鍋が吹きこぼれそうだったら火を止めるぐらいのことはできるだろう。…え…、できる、よな…?

… 一応釘を刺しておこう。

「その鍋、夕飯も兼ねてるから。もし失敗したら俺らの夕飯無いからな。しっかり見張っとけよ。」

「…え、えぇぇぇぇ!?それ、真面目にやるやつじゃん!」














……言っといてマジで良かった。


















この話、なぜか4、5回消えました。

4、5回書き直しました。

……精神的に凄くきつかった…。



書き終えた時の安堵感。

誰か私を褒めてください。



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