厨二心が疼く
「三嶋って、変わってるよね。」
それは、俺がよく言われた言葉だ。
高校1年生だった俺、三嶋海斗は、その性格から周囲に変人認定されていた。俺は普通に振舞っているつもりでも、周りから見れば変人扱いするのに十分な行動をしていたらしい。幸い、友達に恵まれていたのでいじめなどは特になかったが、仲間のあいだではいじられキャラとして定着していた。
そんな俺は。
今日、交通事故に遭って死亡した。
登校途中、曲がり角から突然現れた車に轢かれて。
ドン、という音と共に、引きつるような痛みが全身を一瞬にして巡り、
俺の意識は、白く塗り潰された。
で、今に至る。
えー、現在の状況ですが。
まず俺の実体がない。世に言う魂だけになって、どこもかしこも白い空間の中で浮いている。ただこの空間、適温っていうの?干したばっかりの布団に包みこまれている時みたいに暖かい。
第2に、目の前に微笑んでいる女の人がいる。清楚な白いドレスを着て、優雅に立ちながらジーっと俺を見つめている。え、謎なんだけど。どうすれば良いの?笑ってないでなんか喋ってほしい。
「えぇっと、今の状況に何か疑問は?」
あ、俺から話しかけなきゃいけなかったパターン?なんかごめんなさい。
「んー、ここはどこ、とか?」
なんとなく浮かんだ疑問を放つと、その人は我が意を得たりとばかりに顔を綻ばせた。
うん、正解を引き当てられて良かったです。
「貴方の疑問にお答えします。ここは私が作り上げた、私と貴方だけの世界。死んだばかりの貴方の魂を、私が拾い、この世界に呼び寄せたのです。」
…世界を作り上げた、ねぇ…。
「つまりアンタは、神様ってこと?」
すると女の人は驚いたように目を丸くした。
「そうです。動揺もせず、大した肝の据わりようですね。この状況で、僅かな混乱もなくその理解力。これは、転生先をいじくって正解だったようです。」
「あ?転生先…?」
「えぇ。転生先。私が拾い上げなければ、貴方は家畜の豚になっていましたよ。」
ブフォッ!
この神様、笑顔でとんでもないこと吐きやがった!
「ですが感謝してください。それは流石に哀れだったので、神の特権を行使して貴方の転生先を変えてあげます。」
何気に上から目線だが、それは素直に有り難い。
「私が作った世界に生まれなさい。そうすれば、貴方の意識を持ったまま、人間として生まれ変われるでしょう。」
「えっと、1つ疑問。」
「はい?」
「アンタの世界って、どんな?」
真面目な顔して言った俺の疑問に、神様は少し考えこんだ。いやまぁ俺、顔ないけどね。
「貴方の世界と正反対な世界、ですかね。科学ではなく、魔法が発達しています。」
何っ!?
「他に何か質問や望みはありますか?」
「はいっ!」
俺は勢いよく叫んだ。
「はい、何でしょう?」
「俺、めっちゃ強力な魔法使いたい!」
この歳になって消えかけていた、俺の厨二病が発動する。だって魔法だぜ!?人間のロマン!もし使えるのなら、超強力な魔法を使ってみたい!
神様はワクワクする俺を横目に、頰に手を当ててしばらく思案する。小さくため息をついたかと思えば、その緑銀の瞳を俺に向けた。
「分かりました。貴方のその望み、叶えます。しかし1つだけ、忠告を。」
神様は急に真剣な顔になると、重々しく口を開く。
「その力の使い所を、よく考えなさい。」
俺はその威圧に少し気圧されて…。
しっかりと、頷いた。