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凍える夢  作者: 亜薇
本編
31/33

二十九.恩寵

 地平線無き白の世界に、幾筋もの光が射している。

 其処彼処そこかしこへ恩寵の如く降り注ぎ、天にも地にも銀雪が積もったようだ。

 

――お会いしとうございました。


 巫女がなみだを流して見上げたのは、想い焦がれた純黒の美しい青年だった。


「僕も、会いたかった」


 彼は膝を折り、跪く巫女と目線を合わせた。

 柔らかな微笑みも、低く穏やかな声も、夢で出会った通りの慈しみに満ちている。

 彼を想えば久遠の夜も、永劫の螺旋も越えてゆける。巫女はそうして、今生を生き抜いた。

 

「君が独り、苦しんでいるのを知っていた。君の声はずっと届いていたのに。僕は、君に応えられなかった」


 巫女は、主の哀切なる黒曜石の瞳に、自分の姿が映されているのを見た。


――最後に、炬の声を戻してくださったのは。炬の想いに気付かせてくださったのは、貴方さまですね?


 黒を纏いし青年は、静かに目を伏せた。


「君は、確かに愛されていた。其れを決して忘れてはいけないよ。此れから先に歩む、来世でも」


 張り裂けそうな胸を押さえるも、想いが溢れるのを止められず、巫女は禁じられた願いを漏らす。


――でも、わたしは。貴方からも愛されたかった。


 主はほんの少し、困った顔をしただけで、身の程をわきまえぬ望みを咎めはしなかった。


「僕が、君を愛していないと? 会えないのは、愛されていないからと?」


 思いも寄らぬ問い掛けに、巫女の心がまたも揺さぶられる。


「次に君が生まれ変わったら、必ず会いに行くよ。君が役目を終える瞬間まで、側に居ると約束する」


――ぬえ、さま。


 むせび泣き、震えの止まらない巫女の肩を、黒神が愛おしげに抱き寄せた。


「此の約束を、君は忘れなければならない。僕はまた、来世でも君を悲しませるだろう。でも、忘れないよ――霞乃江。『君たち』が、あの頃と変わらず僕を愛してくれたことを」


――は……い。


 此処は、凍える夢の、果ての果て。

 花のかんばせに、零れるばかりの笑みを浮かべ、霞乃江は光に溶けてゆく。

 半身を喪いながらも自分を愛し、寄り添ってくれた者と再会するために。

 螺旋を巡り、別の少女として生まれ変わり、主との新たな出会いを果たすために。


「また会おう、次の世で」


 霞乃江が最期に聴いたのは、誰よりも優しく、寂しげな男の声であった。











 凍える夢、過ぎ去りて

 辿り着きし玄冬げんとうの黎明

 奇蹟のような微睡まどろみの中

 次の夢路へ独り旅立つ

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