誰もいないわたしはひとり
ふと空を見上げると、どんよりとした雲が立ち込めていた。
昨日あれほどまでも晴れ渡っていた空が嘘のように、誰憚る事なく広がりをみせつけていた。今日は、雨なのだろうかと思うより先にしとしと降りしきる雨に、つい鬱陶しさを覚える。
「買い物は、やはり後回しにしよう。」
宏樹の、やっと奮い立ったやる気も削ぎ落とすまでに雨は全てのものを掻き消していった。部屋に戻ると埃まみれの薄暗い空気がそこいら中立ち込めていた。
電気は来ているのだが、こうも雨が降ると億劫になりそれも叶わなかった。
せめて灯りさへあれば気も紛れるのだがと思うばかりだ。そうすると宏樹は、よたよたと寝室に足を進め、いつものように寝息を立てたのでした。
そして小半時たち、ふとあたりが騒々しくなって来た。
ドンドンドンドン。
「佐々木さんおられたら返事をしてください。」
部落の方の呼ぶ声が耳に届いて来た。
「行こか。」かと一瞬思った。
だが、躊躇する気持ちもそこにはあった気がする。
宏樹は、息をすませふと目についた鉄の棒を握りしめていたのだった。
「ハァ、ハァ、ハァ。」
呼吸も激しくなってきて、物事自体がせっぱくしているようにも感じ、ふと物思いにふけた。
これも遠き日に忘れ去った思い出の1コマだと・・・
裸電球の下で生き、そして置いてきぼりな人生を過ごした。 僕は、今を生きれなくなってしまっている。
誰が悪い、それは自分
人生とは、降りかかった災厄よりその結果により決められる。
それにいちいち他人のせいにするにも、僕自身が駄目さを払拭出来なかった。
ただ安息の日が欲しかったのだ。