#2-3 小学校へ行こう!
幽霊騒ぎから数日経った、ある晴れた昼下がり。
私達は路地裏の空き地で猫の集会をしていた。
『ぶっちゃけ、退治しちゃば良くない?』
『良くないよっ!』
私の提案をアッサリと却下したのは茶トラの裕子さん。
続けて、それを一瞥したシロが肯く。
『ユキが元スケバンか何かで、ケンカの腕っ節に自信があるのかもしれないけど、僕らが単なる猫だという事を忘れてないかい?』
『スケバンって何?』
私の返答にシロが固まった。
『オ、オオオ、オウフ……! ジェネレーションギャーーップ!!』
『分かる! その気持ち分かるよ、シロくーーん!!』
シロと裕子さんがひしっと抱き合う。
『何その茶番……』
『いや、それはともかく。何でまた幽霊退治を?』
『何でまたと言われてもねぇ。アンタから見せられた地図を見た限りじゃ、いずれ対処しないとヤバいでしょアレ』
先日の幽霊目撃騒ぎの際にシロから見せて貰った「肉球スタンプ(幽霊目撃情報)付きの周辺住宅地図」だが、わずか数平方キロメートルの狭いエリアにも関わらず、既に25箇所も立ち入り禁止区域になっていた。
シロがいつから記録しているのかは分からないが、下手すると自由を満喫するはずの猫の身分にも関わらず、秘密諜報員みたいにコソコソ生活する羽目になりかねない。
『ユキの言いたいことも分かるけど、問題は我々でそれをどう対処するかという話だね』
『私達をここに連れてきた女神様にお願いとか、出来ないのかしらねぇ』
私のぼやきを聞いて、シロは苦笑しながら前脚を左右に振った。
『無理無理。彼女は人をこの世界に連れてくるだけで後は知らんぷりだからね。どうやら過干渉そのものが禁じられてるみたいだけども』
うーん、神秘なパワーで悪霊共を一網打尽~みたいなのを期待してたのだけど、まあ出来るんだったらとっくにやってるか。
『女神様は始末書をすげー怖がってたからなぁ……。個人的には嫌いじゃないけど、あの下で働く天使はクッソ苦労してると思う』
何だか妙に具体的に状況を知っていそうな口ぶりなのは、アメショのにゃん太くん。
『そういえば君は女神の依頼で御主人様を救ったんだっけな。あれから何か追加で依頼されたりとかは無いのかい?』
『いんや、最後に天界で見送られたっきりだなー。かなり不真面目だったし、左遷されたり仕事ほっぽり出して逃げてたりして』
にゃん太は笑いながら言うものの、実際に私も転生早々いきなり不良猫に囲まれるような無茶苦茶なスタートだったし、十分あり得るのが不安過ぎる。
『さーて、俺はいっちょ見守りに行ってきますかね』
『見守り?』
『ああ、ウチの御主人様がそろそろ下校時間なんだよ』
そう言うと、にゃん太は小学校の方に向かって行った。
『雰囲気は不真面目そうなのに律儀ね』
『彼は至って真面目さ。ホントびっくりするくらいにね』
にゃん太の後ろ姿を目で追いながら呟くシロの表情は、何だか誇らしげだった。
◇◇
『そうか、酒屋の裏もダメか。あそこは良い"ひなたぼっこ"スポットだったんだけどな』
シロは残念そうな顔でいつもの地図に肉球スタンプを押したわけだが、26個目のそれを見た時、そのスタンプの並びに不思議な違和感を覚えた。
『幽霊の目撃箇所、この近隣だけやたら多くない?』
私が前脚で指した場所は、つい先日にゃん太がご主人様を見守りに行った小学校だ。
校内だけでも7箇所、さらに周辺含めると13箇所に達する超絶な幽霊遭遇スポットと化している。
さすがに街の目撃事例の半数が小学校というのは異常だろう。
『まあ、小学校だから仕方ないよね』
『うんうん』
周りの猫達が言っている意味が分からない。
『小学校に幽霊が出るのが仕方ない?』
私が訝しげに尋ねると、逆に周りの猫たちが不思議そうな顔になってしまった。
『小学校といえば怪談とか七不思議とか、知らない?』
『知らないわねぇ……』
『おおおおぉ、ジェネレーションギャップ……なのかなぁ?』
裕子さんが首を傾げながら困惑しているものの、知らないものは知らないのだから仕方ない。
『でも、にゃん太はココにいつもご主人様を迎えに行ってるんでしょ?』
『彼の場合それを理解した上、自己責任でご主人様を護るのを優先してるからだね。僕的にはあまり望ましくないんだけど』
そういえば彼はご主人様を護る為に猫に転生したとか言ってたっけ。
せっかく猫に転生したのに、自由奔放に生きる道をあえて捨ててまでその子を護ろうと思ったのは何故なのだろう?
『とにかく、小学校は特に目撃証言の多いエリアなんだから、不用意に近づかないようにね!』
◇◇
『というわけで小学校にやってきました!』
『いいのかなぁ……』
にゃん太が不安そうな顔でチラチラと後ろ……つまり私の顔を見てくる。
『アンタが自己責任で行ってるってシロが言ってたし、つまり自己責任ならオッケーってことよ!』
『それ多分、そういう意図で言ったんじゃないと思うんだけどなぁ』
『細かい事は言いっこ無し!』
私が断言すると、とうとう観念したのか、にゃん太はトボトボと歩き出した。
彼が歩くルートは的確に幽霊の目撃箇所を回避しているらしく、ブロック塀の上を歩いたりフェンスを跳び越えたりと大忙し。
学校近くの墓地と用水路の隙間の道を通っている時は『ここ、いつか幽霊と遭遇して通れなくなりそうだなー』とか思いつつも、私は黙って後ろをついて行くのだった。
『そういえば、にゃん太ってどうして飼い主の子を迎えに行ってるの? 距離もそこそこあって幽霊もいっぱい出るみたいだし、大変じゃない?』
『んー。毎日朝昼晩と食べさせてもらってるお礼もあるし、俺自身が桐子ちゃんを護る為に転生したみたいなもんだからね。大人になるまで見届けたらバーッと大往生で逝って、それからあの世で女神様にドヤ顔してやろうかなと思ってる』
『何それヘンなの~』
私はそう言ったものの、何となくそんな生き方も楽しそうだなと思う。
ヘンと言われたにゃん太もそのニュアンスを察したのか、私を見て少し誇らしげに笑った。
そして私たちは何事もなく小学校の表門前に到着。
外には子供達がたくさん集まっており、大人がそれを誘導している様子から、どうやら個別ではなく班を組んで帰る仕組みになっているようだ。
『俺は桐子ちゃんを迎えに行くけど、ユキさんはどうするの?』
『私はちょっと中を探検してみようかなと』
私の答えを聞いて、にゃん太は微妙に困った顔をしている。
これで色々と詮索されると厄介なので、さっさと話を終わらせよう。
『だいじょーぶだいじょーぶ。幽霊が目撃された場所には近づかないからさっ』
そう言うと私は脱兎のように駆け出した。
……猫だけどね。