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#2-2 触れられざる者

 猫に転生してから早半月。

 やはり自分にはノラ生活が一番しっくり来る気がしたので、シロに助言を受けつつ毎日を過ごしているのだけど、歩くごとに首元で鳴る鈴だけは未だに慣れない。


『これ外しちゃ駄目? かなり邪魔なんだけど』


『バカ言っちゃいけないよ! それがあるだけで保健所に連れて行かれるリスクがものすごく減るんだから、御守りとして大事に付けておくようにっ!!』


『はいはい』


 シロが言うには、近所のペットショップが廃業した時に野ざらしで放置されていた大量の鈴ヒモを回収して、シロが寝床にしている軒下に隠してあるらしい。

 猫の前脚で首にかけるのは大変だったけど、これがあるだけで飼い猫と勘違いされるのだそうだ。


『転生早々に君に話しかけてきた連中だけでなく、この世界には身の安全を脅かす危険な存在が多数ある。人間がその代表格だけど、他にも"幽霊"などの化け物にも注意しないとダメだよ』


『……は?』


 今、コイツは何て言った?


『僕達が猫に生まれ変わるのが当たり前なくらい、この世界は科学だけでは説明できない事が色々あるんだ。猫が時々、何も無い場所をじっと見つめたり威嚇するのを見たこと無いかい?』


『あっ!』


 私自身は猫がそういった行動を取る姿を見たことは無いのだけれど、確かに猫は霊感が強いとかそんな話を本で読んだことがある。

 実際は単なる迷信で、壁の裏側に居るネズミとかに反応してるとか、そんなオチだと思っていたけど、まさか幽霊が実在するとは……。


『この世界で暮らしているのは、僕達のように転生が許された幸せ者ばかりじゃないってことさ。あっ、もし遭遇しても、初めて出会った時みたいにケンカ売っちゃ駄目だからね!』


『あれは私が売ったんじゃなくて一方的に絡まれただけなんだけど』


『応戦するのも駄目なんだってば!』


 いつもヘラヘラしてるシロがこれだけ念を入れるという事は、本当に洒落にならない脅威なのだろう。

 私は素直に忠告を聞き入れ、こくりと肯いた。



◇◇



『アンニュイねぇ』


 空はどんよりと暗く灰色、雨はザーザー降り。

 冬の雨は下手に浴びると体温をゴッソリと持って行かれるので、人目につかない場所で静かにしておく以外にやる事が無い。

 こういう時に飼い猫や半ノラは家に入れてもらえるので羨ましい限りだけど、下手に人間と過ごしてボロが出ると洒落にならない。


 というのも、私達のような転生者は『元々人間だった事がバレたら一発アウトで地獄行き』の情状酌量一切無しのルールになっているので、飼い猫のように人間と過ごすという事はつまり、生活様式が人と同等なのに人として生活できないジレンマに悩まされるのだ。


『ユキちゃん、今日はシロくん居ないから寂しそうだね』


『は、頭沸いてんの?』


『ひいっ、ごめんなさいーっ! 謝るから睨まないでーっ』


 この茶トラの小娘(名前忘れた)は何をふざけた事を言っているのか。

 いや、たぶん私の方が年下だけども。


『まったく。ああいうインテリ系みたいなヤツは趣味じゃないわ。困ったときに頼れるトコだけは良いんだけどね』


『ふふっ、そうだね~』


 今の『ふふっ』が何なのか気になるけど追求してもロクでもない事を言われそうだし、話題を変えることにした。


『……ところでシロが言ってたんだけど、私らが幽霊見えるってホント?』


 先程までのニコニコ笑顔が凍り付き、茶トラのシッポがボフッと膨らんだ。


『私、猫として生きる日々にはとても満足してるんだけど、そこだけは凄くイヤ……』


 なるほど、どうやらこの子は実際に幽霊に遭遇した事があるようだ。

 その表情は酷く青ざめていて、本当に苦手なのだということがうかがえる。


『あのね、ユキちゃんがもし遭遇しても戦おうとかそういう事を考えちゃ駄目だよっ。私達は単なる猫であって、ゴーストスイーパーじゃないんだからね?』


『ゴーストスイーパーって何?』


 私の返答に、茶トラはまるでフレーメン反応を起こしたかのようなスゴイ顔になってしまった。


『じぇ、ジェネレーションギャップぅ……ぅぅぅ……うっうっ……』


 そのままガクリとうなだれてしまって、何だか申し訳ない。


『えーっと……あねさんって呼んだ方がいい?』


『やめてっ! 余計悲しくなるからっ!!』



◇◇



『雨が降ーっている~』


 茶トラがよく分からない曲を口ずさみ、私はその横でぼんやりと灰色の空を眺めている。

 それからふと横目で近くの民家に目を向けると、窓の中で影がスッと横切るのが見えた。

 そして家の門は堅く閉ざされ、その入り口には『売物件』の文字。


『まさかね……』


『ん? ユキちゃん、どうかしたの?』


『いや、そこの空き家に人影が見えた気がして……』


『さあユキちゃん! さっさとここを離れて、商店街とか明るいトコに行こう!!』


 ついに恐怖が限界を突破したらしく、茶トラが震えながらポフポフと叩いてきた。


『えー、雨に濡れるの嫌なんだけどなぁ』


『おねーさんの言うことを聞きなさーいっ!』


 ついに先輩風を吹かせてまで強要されてしまった。

 ……仕方ない、従ってやるか。


 茶トラの後ろについて商店街に向かおうとしたその時……



『見たな?』



 明らかに私達とは違う、第三者の声が聞こえた。

 どうやら茶トラにも聞こえていたらしく、器用に両前足で耳を押さえて頭をブンブン振っている。


 声の聞こえたあたりを見ると、人の形をした黒い何かがそこに居た。


『さっきの影はアンタね?』


 私の言葉に影はニヤリと笑い……


『何で話しかけちゃうのよバカーーーーーーッ!!!』


『えっ……わっ、わあぁーーーーっ!?』


 茶トラに首根っこをくわえられたまま、私は運ばれていった。



◇◇



『ユキちゃん、めっ!』


 怒られた。


『でも、正体くらいは明らかにしておきたいかな~?』


『めっ!!』


 また怒られた。

 生前の私なら大人に怒られたって絶対に従わなかったのだけど、何だかこの茶トラの怒りに対しては逆らう気が起きない。

 ……多分、私の事を本気で心配してくれているからだろうか。

 正直、悪い気はしない。


『ごめんなさい』


『……はいっ、許してあげる。でもホントのホントのホントにね、このくらい用心して逃げるべきなんだよっ!!』


 茶トラの言葉に、合流したシロがウンウンと肯いた。


『走って逃げ切れただけラッキーだったね。もし地縛霊じゃなかったら、ひたすら追いかけられてグサリもあるから』


『怖っ! そんだけ危ないなら、そう具体的に言いなさいよね……』


『幽霊を見たことない状態の君にそんな説明したら、興味本位で見に行くだろう?』


 うっ、否定できない……!

 私の反応を見てシロは溜め息を吐いた。


『ところで裕子さん。今回遭遇したポイントは、西の住宅街にある川沿いの辺りかな?』


『うん、そこの空き家でユキちゃんが目撃して、それから話しかけられたよ』


 この茶トラ、裕子さんって名前だったのかっ!!

 名前を知らないまま、微妙に言葉を選びながら話してたけど、これでやっと胸のつっかえが取れた感じだ。


 ……って、そうじゃなくて。


『幽霊の目撃箇所を確認してどうすんの?』


『そのエリアに立ち入らないように皆に伝えるのさ。僕達が集団行動するのは、命に関わる危険な情報を皆で共有して、より精度を高める目的もあるんだ』


 確かに、単独ソロでは集められる情報量が限られるし、窮地に陥った時だって仲間の協力があれば生還できる確率も高まるだろう。


『ところで、今まで幽霊を目撃した場所ってどれくらいあるの?』


『こんなこともあろうかと!』


 そう言うと、シロは軒下の奥から何やら古ぼけた紙を咥えて戻ってきた。


『これは……町内地図?』


『近くのゴミ捨て場から拝借させてもらったんだ。今と多少違うけれど、地図があるだけでもありがたいもんさ』


 シロは地図を広げると、前脚に朱肉を付けて紙上にペタッと押しつけた。

 おお、肉球スタンプだ!


『というわけで、この赤色の箇所に近づかないように心掛けてね』


 ……地図のあちこちに肉球の跡がある。


『これ、何件あるの……?』


『今日現在で25カ所だね』


『……全部覚えなきゃ駄目?』


『うん、駄目』


 oh……。

 勉強が嫌いな私にとって、最難関の障害と直面したのであった。

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