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#2-1 白猫のユキ

『なんていきなり過ぎる展開……』


 普通に生まれ、これといって人様に迷惑をかけるでもなく暮らしていたはずなのに、私は若くして死んだ。

 どうやらこの世界では二十歳未満で亡くなると「転生」でやり直しが出来るようになっているらしく、私も例に漏れず復活!


 だが、その転生には条件があり、記憶を全てリセットして新たな人生をやり直すか、記憶を残したまま猫として再スタートするかを選べと言われてしまった私は「まあ、猫なら寝て起きてゴロゴロするだけだよなぁ」なんて思って猫に転生したわけだが……。


『見ねぇ顔だな新入りィィ!』

『兄貴、コイツ雌ですぜっ!』

『ゲヘヘヘ、お持ち帰りしちまいたいねぇ!』


 まさか野良猫として路地裏フィールドに放り出されて直後にエンカウントとか、投げっ放しジャーマンにも程がある。

 生前私が好んで読んでいた転生モノなら「大いなる意思」みたいな奴がやたら丁寧なナビゲーションをしてくれていたのだが、そういったものも無い様子。


『……んで、アンタ達は私に何の用があるわけ?』


 精一杯の強がりではあるが、なるべく生前の自分に近いイメージで、極限まで相手を軽蔑の眼差しで睨みつけてやった。

 女だからとナメてかかってくるゲス共は逆境に弱いので、こういうのが良く効く。


『あ、兄貴、コイツの目こえぇよ……』

『バカ野郎、な、何を怯えてやがるっ! 相手は子猫じゃねぇか……!』

『ヒッ、ヒィィ!』


 慌てふためくチンピラの様子に内心ほくそ笑みながら、さらにもう一発追撃してやることにした。


『アンタ達、女神様の奥に居られた全知全能の神様には挨拶したの?』


 私の言葉に周りの猫達はざわつく。


『その様子なら知らないみたいね。私はアンタ達のようなガラの悪い連中を粛正しゅくせいしなさいと命令を受けてやってきたのよね』


 淡々と語る私に、周りの猫達の顔には恐怖の色が浮かぶ。


『ちなみにもう一つ言っておくと、私に危害を加えようものなら、その時点で確実に地獄行きだから。神々の意思に私達のような小動物が逆らうという事の意味、分かるよね?』


 さらに声にドスを効かせて一歩踏み出すと、相手のリーダー格は泣きそうな顔で後退あとずさりする。


『……で、どうするの?』


 トドメに思いきり低い声でさげすみの目を向けてやると……


『あ、兄貴ぃ!!』

『くそっ! 覚えてやがれっ!!』

『待ってくれぇ~~!!』


 三匹の猫は一目散に逃げていった。


『ふぅ……』


『ブラボー!』


『っ!?』


 まだ他にも居たのかっ!!

 私が慌てて声の方向に顔を向けると、そこには真っ白な毛並みの美しいオス猫が居た。


『おっと睨まないでくれ。僕はこの辺りを取り仕切っている白猫のシロ。さっきの奴らはシマの無い無法者でね、我々も手を焼いているんだ』


 なるほど、口振りから察するに今度の奴は正義側っぽい。


『それにしても、神々から悪を粛正するために選ばれし猫とは恐れ入った!』


『アレは単なるハッタリよ』


 私の即答にシロの目が点になる。


『あんなの大嘘に決まってるでしょ。もし粛正したいなら神が勝手にやるだろうし、そもそも猫にそんな力を与えたりしたら、人間に正体がバレるのが関の山でしょ。私達に猫らしく振る舞えとか言いながら、そんな危ない事をさせるような神様が居たら、本当に大馬鹿よね』


『つまり君は、あの場で行き当たりバッタリの口八丁を……?』


『その言い方だと私がズル賢いみたいじゃないの』


『……ぷっ! うははははは、面白いねっ! 気に入った!!』


 そう言いながら前脚で私の頭をバシバシしてきた。

 なんて馴れ馴れしいヤツだ……。


『それにしても、小さな子猫がチンピラに襲われてるというのに、一部始終を見終えてから出てくるなんて、ちょっと頂けないわね。ああいう時は颯爽さっそうと現れて敵を倒す方が株上がるわよ?』


『いやはや面目ない。神から授けられた力とやらを見てみたくてね。もちろん危ういと判断した時点で助けるつもりだったよっ』


 そう言いつつも申し訳なさそうに顔の正面で両前脚を合わせる姿に、これ以上責める気はしなかった。

 この爽やかな感じ、きっと生前はかなりのリア充だったのだろう。


『さて、野良猫として転生した君にはこれからいくつかの選択肢がある』


『選択肢?』


 いぶかしげな顔をする私を見てシロはニヤリと笑う。


『天涯孤独の身でチンピラ連中と戦いながらこの界隈を制圧するもよし、適当な段ボールに入って悲しそうな声でニャーニャー鳴いて飼い主を探すもよし』


 どちらも勘弁願いたい選択肢だ。

 特に後者は自分で想像するだけでキモい。


『始めに論外な選択肢を挙げておいて、最後に選択肢という名の強要をするんでしょ。確かドアインザフェイスだっけ?』


『僕としては強制するつもりは毛頭無いんだけどね。……まあ薄々感づいていると思うけど、僕らのナワバリグループに是非とも君に参加してほしいと思っているんだ』


 ほーらきた。


『一番無難で一番まともな選択を最後にふっかけるなんて、やっぱり強要みたいなもんじゃないの』


 私の指摘に目の前の白猫はニャハハハと猫っぽく笑った。


『まあいいわ。そんで、私はこれからどうすればいいわけ?』


『ひとまず仲間達の居る場所まで来てもらおうかな。そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったけど、何と呼べば良いんだい?』


 そんなコトをいきなり言われても、猫として生まれたばかりで名前なんて無いし。

 生前の名前をそのまま名乗れば良いのだろうか?


『ユキ……でいいかしら』


『ほほう、同じ白猫同士でなおかつ君は白雪のユキちゃんか。とても可愛い名前がキュートだし、まさに白猫に転生する為に生まれたかのような名だね』


『猫に転生するために生まれた人生とか嫌すぎるわ』


 私が苦言を吐くと、再びシロが笑った。


『それじゃ、今後ともよろしくね、ユキっ』



◇◇



 シロに連れられて、何の変哲も無い路地裏にやってきた。

 人通りが少なく、空き地にドラム缶やらタイヤやらが投げてあるので、どこかの建設会社の資材置き場だろうか。


『はーいみんな、注目~。新人さんだよ~』


 猫なのに新人……言い直すと新ネコ?

 うーん、なんだかそれも違うな。


『彼女は白猫のユキ。キャラがかぶってるとか言ったら僕のハートが傷つくから勘弁な~』


 お前は何を言っているんだ?

 だが他の猫達も同じ事を思っていたらしく、私と同じような表情をしていた。


『私はこういう無地よりも、そこのアンタみたいな柄がある方が良いと思うんだけどね』


 私はそう言いながら、端っこの方で眠そうな顔でぼんやりしていたアメショを見た。


『え、俺???』


『ほほう、にゃん太っちが好みと来たか』


 にゃん太って……。

 私がいぶしげな顔で見ているとコチラの考えを察したのか、にゃん太とやらが慌てながら首をブンブンと横に振った。


『この名前は俺が自分で付けたわけじゃないぞっ!? 桐子ちゃんっていう女の子が命名したんだから仕方ないだろっ!』


 そう言いながらも本気で嫌がっている様子は無く、どちらかというと飼い主さんに付けてもらった名前をバカにされたくないという想いをひしひしと感じる。


『なるほど、ここに居るのは全て野良ノラってわけじゃないのね』


『ああ、毎日寝床を変える半ノラや、にゃん太のような純粋な飼い猫も居る。僕達の活動はあくまで自分の生きるエリアにおける平和維持が目的であって、生き方を型にはめるような事は求めていない。せっかく猫として転生しておいて、そんな生き方をするなんてナンセンスだろう?』


 当然ながらその意見に反対する者は居らず、私も全く同意見だった。


『ところでユキちゃんはどこで寝泊まりするの? 今の季節は夜が結構寒いから、ちゃんと防寒を考えて寝ないと凍死しちゃうよ!』


『うーん……』


 茶トラのに言われて気づいたけど、確かに寝床は死活問題だ。

 転生1日目で凍死してあの世逝きとか、いくらなんでもあんまりすぎるし。


『それならシロについて行くと良いんじゃねーか?』


 一匹の猫がとんでもない提案をしてきたため、私は思わず露骨に嫌そうな顔でシロに目を向けた。


『ど、どうしてそんな目で僕を見るんだいっ!?』


『こういう善人ぶってるヤツって、いきなり豹変したりするのよね。襲われないかしら?』


『待ってくれ誤解だ! そもそも君は子猫なのだから、そういった心配は無いだろう!?』


『成長したら襲われる心配が……?』


『ちっがーーーうっ!!』


 焦るシロの様子に一同は爆笑する。


『冗談よ。面倒をかけて申し訳ないけど、ご教示頂けるかしら?』


『……なるほど、これが噂に名高いツンデレというヤツだねっ! よろこんでっ!!』


 やっぱりコイツに頼るのは失敗だったかしれない……。

 これからの事を考えて、何だか気が重くなるのであった。

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