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#2-? EXTRA

 あるところに一匹の猫がいました。

 西に行けばトラちゃんと呼ばれ、東に行けばチャッピーと呼ばれ……いや、チャッピー!?

 チャッピーって正気かお前っ!!?


『この世界の人間のネーミングセンスはやっぱり理解できないなぁ』


 名前に込められた想いと意味によって対象者の能力が変動するのが私の種族のもつ特性ユニークスキルなのですが、どうやら世界を渡っても変わらないそうで。

 先程のように、これといった意味もなく適当に名前を付けられてしまうと、魔法どころかロクに力も出ないのです。

 つまり……


『お腹すいたよぅ……』


 獲物を狩る力も残っていない私は、見事に行き倒れていました。


『神から大いなる力を授かり、世界の平和を護り続けてきた私の最後が、まさか別世界で餓死ですか……』


 しかも最後の真名はチャッピー……って言うか、これどっちかというと犬の名前だろ!!

 最後に私にこんな名前を付けた大バカ野郎はどこだ!!

 一発ぶん殴ってやる!!


 今思えば、去年まで私を飼ってくれていた、優しいおばあちゃんとの生活は天国でした。

 名前が『タマ』なのは玉に傷だったけど……いや、冗談じゃなくてですね。


 ただ、おばあちゃんが亡くなった後にやってきた親族が開口一番に「私を保健所へ連れて行く」とか言い出すようなクソ共だったので、私は命からがら脱兎のごとく逃げ出したのです……猫ですけど。


『哀れなわたくしめに、お慈悲……いや、ご飯を……』


 もう空腹が限界で一歩も歩けません。

 神様、生まれ変わったらせめて、衣食住には困らない生活をお願いします。

 ガクッ……。



「ねえ、にゃんこさん、だいじょうぶ?」



 なんてこったい。

 あまりのお迎えの速さに、おねーさんビックリだよ!

 どこぞのパトラッシュですら、絵画の前で倒れてから天に召されるまで長い演出があったというのに。


「にゃんこさーん?」


 しかも、やたら幼い子が間の抜けた声でひたすら私に呼びかけるだけ。

 感動する要素がまるでない。


「えいっ」


『うにゃあっ!?』


 何かを頭にぶつけられた。

 前脚を伸ばしてその何かに手を触れると、それは……


『うにゃにゃにゃにゃにゃああああ!!?(焼き鯖ああああ!!?)』


「よかった、いきてた!」


 私は一心不乱に焼き鯖をモグモグしつつ、ふと斜め上を見ると、女の子が窓から身を乗り出して満足げにこちらを見て笑っていた。


『……にゃー?(貴女がくれたの?)』


「あはは、すごくおなかすいてたんだね~」


 女の子は嬉しそうに私が焼き鯖を頬張る姿を眺めていて、何だかそれがとても恥ずかしかったけれど、でも嬉しくて。


『にゃー!(ありがとう!)』



◇◇



 それからというもの、私は女の子のところに通うのが日課になりました。

 お昼時に行くと色々ご飯も貰えて……いや、それだけが目的というわけではないのだけど、この子のくれるご飯はちょうど好みの味付けだったので……あ、ちなみに今日は鶏のささみでした。


「ホント、にゃんこさんはおいしそうにたべるねぇ」


 女の子が満足げに私を眺めながら話しかけてきました。


「にゃんこさんは、どこからきたの?」


『にゃー(うーん……)』


 どこからと言われても、こちらから話す言葉は伝わらないみたいですし、どうしたものか。


「それに、ずっとにゃんこさんってのもヘンだよねぇ」


『……っ!!』


 まさか、この展開はっ!!!


「なまえをつけてあげようか?」


 おっしゃああああああああーーーっ!!!

 思わず立ち上がってガッツポーズしそうになったわっ!!!


 よしこい!

 チャッピー以外なら何でも良いからっ!

 バッチコーイ!!


「にゃ、にゃんこさん、お、おちついてっ」


 あまりにいきり立ちすぎたのか、女の子が怯えてしまいました。

 おっと、いけないいけないっ (・ω<)


「えーっと、それじゃ……」


『にゃー(わくわく)』


「ゆうこ!!」


『うにゃっ!?(ナンデェ!?)』


 なぜユウコっ!? ホワイ!!?

 だが、困惑していたのも束の間、私の身体から聖なる力がまるで噴水のように沸き上がってきた。


 これは一体……?


「おかあさんのなまえなんだっ!」


『……っ!!!』


「すごくとおくにいるらしいんだけど、あえないみたいなの。でも、いまはキミがいるから、だいじょうぶ!」


 私の種族は、名前に込められた意味と意志の強さによって能力が決まる。

 私に与えられたその名は、少女の「母に逢いたい」という強い願いと、母から少女への愛に満ちていた。


「わたしのなまえはユキ! これからも、ずっといっしょにあそんでね。やくそくーっ!」





『で、ユキちゃんはシロ君とユウゾウ君、どっちがタイプ?』


『は? 祐子さん、ついに痴呆でも始まったの?』


『ひどいっ!』


 私が率直な意見を伝えると、祐子さんはわざとらしくヨヨヨ……と嘘泣きしながら地面にへたり込んだ。

 そんな私と祐子さんを見て、ユウゾウは溜め息をひとつ。


『ユキよぅ、一応こんなのでも先輩なんだから多少は気ぃ遣えよ』


『こんなのでもーーーっ!?』


 ユウゾウの放ったトドメの一言が突き刺さったのか、祐子さんは泣きながらパタリと倒れてしまい、それを見てユウゾウはあわあわと困り果てた顔で私に助けを求める目線を送ってきた。

 いや、私に求められても困るんだけど。


『祐子さん、屋上での一件はすげー格好良かったのになー』


『バーカ、能ある鷹は~ってヤツだ。普段ドジっ子だからこそ、そのギャップが良いんだよ! ギャップ萌えだよ!!』


『すげえなヒトシっ、天才か!』


 ……相変わらずこの二匹は幸せそうだなぁ。


『でも、祐子さんにしては珍しいね。今まで仲間が入ってきても、ユキみたいに絡んだりしなかったじゃない? どんな風の吹き回しだい?』


 シロの問いかけに、いつの間にか泣きやんだ祐子さんが笑顔で答えた。


『ふふふ、ナイショっ♪』




(EXTRA END)

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