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#2-7 闇を討つ力

 頭上で羽ばたくそいつは、高笑いしながら私達を獲物呼ばわりしてきた。


『もしかして、かなりヤバい?』


『もしかしなくても、危機的状況だね』


 私をかばうようにシロが前に出ると、空に浮かぶ黒い化け物に向かって叫んだ。


『ここが君の寝床であったのならば謝る! どうにか見逃しては貰えないだろうかっ!』


 だが、化け物は懇願の言葉を聞いてニヤリと嘲笑った。


『やなこった。俺様のような崇高な悪魔が、お前等みたいな下等生物の要求を聞く義理なんざないのさ!!』


『……崇高なくせに猫相手に全力とか、ショボいわね』


 思わず素で突っ込んでしまった私に、悪魔とやらは激しく睨みつけてきた。


『テメェ、この俺様を愚弄するとは良い度胸だなァ! 今この場で挽き肉にしやろうかっ!!』


 悪魔が巨大な翼を振るうと、黒い針が猛スピードで私の目の前に……


『あぶねぇ!!』


 咄嗟にユウゾウが私を突き飛ばし、間一髪で黒い針は横を通り抜けて、床に突き刺さった。


『あ、ありがと……』


『バカかおめーはっ! あんなバケモノ相手に喧嘩売ってんじゃねえよ!』


 ユウゾウは怒鳴りながらも、よっぽど怖かったのか、その足はガクガクと震えていた。


『ウッヒャ、野良猫の分際でお姫様を護る王子様気取りか!』


『チッ。俺はあいにく王子様なんてガラじゃねえ。コイツもお姫様と言うより、女王様って感じだしな』


『……女王の方が偉くない?』


『そういう意味で言ってんじゃねえっつーの!』


 私の冷静なツッコミに何故かキレ気味のユウゾウを見て、再び悪魔は不気味な笑みを浮かべた。

 

『ふはははは、良いことを思いついた! そこの小娘を庇った貴様、俺様が今から放つ黒針を受けて悲鳴を上げずに絶命すれば、この場の皆を救ってやるぜェっ!!』


『なっ!?』


 驚愕する皆を後目しりめに、ユウゾウは悪魔を見上げて口を開いた。


『……それは絶対か?』


『勿論! 悪魔の契約は魂と引き替えに約束を守るものだからなァ! 無論、テメェの魂はしっかり頂くけどなっ!!』


『……分かった』


 そう言うと、ユウゾウは仰向けに寝転がって四肢を広げた。


『ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 何を勝手に決めてんのっ!!?』


『うっせぇ、男に二言はねーんだよ! おいシロっ、ウチのバカ二人の面倒は任せたからな!』


 ユウゾウの言葉にシロは無言で肯く。

 それを見たコウイチとヒトシは震えながら泣いていた。


『いやぁ泣かせるねぇ。自己犠牲ってヤツ? んじゃ早速いってみようかっ!!』


 有無を言わさず悪魔の放った黒針が、ユウゾウの脇腹を撃ち抜いた。


『……っ!! ………ーーー!!!』


 痛みに悶絶しながらも、決して一言も発する事無く歯をギリリと鳴らして食いしばるユウゾウの姿に、思わず祐子さんは目を背けた。


『おっと、手元が狂ってしまったぜェ! でも"一発で殺す"なんて約束してねーし、もう2~3発くらいミスっても文句無いよナァ?』


『この、腐れ外道……!』


 私が睨むと、悪魔は嬉しそうに下品な笑みを浮かべて翼を羽ばたいた。


『ヒャヒャヒャ! それ一発ゥっ!!』


『………っ!!!』


 黒針がユウゾウの左耳を貫くと、ユウゾウはあまりの痛みに床を転がってから、うつ伏せに倒れた。


『その様子じゃ、あと一発が限度か。最後はド派手に頭をぶちまけてやるかなァっ!! ヒャヒャヒャ!! ホイっ!!』



 ―― 悪魔が再び翼を羽ばたいた時、考えるより先に脚が動いていた。



 血塗れで倒れるユウゾウの頭を狙った一撃は、彼に当たることなく私の胸を貫いた。


『……ぐっふ』


 生前、とても辛い治療に長年耐えてきたけれど、さすがにこれほど痛いのは初めてだ。

 いや、むしろ感覚的には痛いというより『熱い』だろうか。

 そんな事を考えながら、私はユウゾウの隣に倒れた。


『ユキっ……てめぇ……ごふっ、な、何やってんだバカ野郎!!!』


『アンタ……喋ったら駄目じゃないの……』


『ふ、ふざけんなっ……そんなの……ねぇだろ……誰の為にやったと……』


『そういう護られるお姫様役はガラじゃないわ……』


 さっきコイツの言った言葉をそのまま返してやったものの、何故こんな無意味な事をしたのか、自分でもよく分からない。

 ただ、この悪魔の言いなりになって、ユウゾウを死なせてまでも助かりたいとは、全く思えなかったのだ。


『ヒャー、泣かせる、泣かせるね! でも約束を破ったのはそっちだからナァ! まずはテメェら二人の魂を頂きだぜぇーー!!』


 悪魔が高笑いを上げながら翼を広げたその時……!

 


『ヒール!!!』



 凛とした声が辺りに響くと、私のユウゾウの身体は優しい光に包まれた。


『『???』』


 光が消えると、黒針を受けた箇所のキズは癒やされて何事も無かったように元通りになっており、私とユウゾウは互いの身体を見ながら目を白黒させていた。


『な、なんだコリャ!?』


 困惑する悪魔に向かって、一匹の猫が対峙する。


『……はぁ、こうなるのが嫌だったから、今まで避けてきたのですけどね』


 ガクリと肩を落としながら呟く一匹の猫に、この場に居た皆が驚愕している。

 だって彼女はこの中で一番怖がりの……


『祐子さんっ!?』


 私が名前を呼ぶと、祐子さんは悪魔を睨みながらチラリと私の顔を横目で見て微笑んだ。


『もう許しませんからね』


 祐子さんの言葉に、悪魔は楽しそうにケラケラと笑った。


『ははは、許さない? この俺様を? 冗談キツいぜェ!! まあ、この世界に治癒魔法が使える猫が居るのは初耳だ。だが、その程度の力で檻から逃げる事なんて……』


『ホーリーライト』


 ちゅどーん!!


『グケェッ!?』


 祐子さんの前脚から出現した光の玉は見事に悪魔の腹へ命中し、悪魔は変な声を出しながら屋上の床に墜落した。


『な、なななな、何なんだよテメェはっ!?』


 さっきまで余裕の笑みを浮かべていたはずの悪魔は、顔を歪めながら下腹部を押さえており、今の一撃が相当なダメージだった事がうかがえる。


『さっきユウゾウさんが受けた苦痛に比べれば、屁でも無いと思うんですけどね。その薄汚い翼を少しずつスライスしてやりましょうか?』


 祐子さんの口から信じられないくらい残虐な言葉が吐かれた。


『貴方の正体は……夜の学校の屋上へ迷い込んできた者の魂を喰らう悪魔でしょうか。確かに限られた空間で結界を張るのも容易ですし、助けを呼ぶことも叶わない……何とも陰湿な手口です。さっきユキちゃんが言ってましたけど、腐れ外道としか例えようの無い、ぶっちゃけクソ野郎ですね』


 祐子さんは、私がユウゾウ達と初めて対面した時以上の冷たい眼差しを悪魔に向けた。


『んだとテメェ! ぶっ殺してやらあっ!!!』


 悪魔は怒りの雄叫びを上げて翼を羽ばたかせると、私やユウゾウを撃った時とは比べものにならない程、大量の黒針を放った!


『ホーリーシールド!!』


 祐子さんの前脚から放たれた光のベールが皆を包み込み、飛来する黒針を全て飲み込んでかき消した。


『正直な話、私、怒ってるんですよ』


『ひっ、ひぃっ!』


 ゆっくりと猫らしく四本脚で歩み寄る祐子さんの姿に、悪魔は恐怖の表情で後ずさる。


『学校の怪談というのは、トイレの花子さんとか、誰も居ない音楽室で奏でられるピアノみたいに、目撃したところで話が終わるから面白く、そして怖いのです』


 祐子さんが宙に前脚をかざすと、空に光の輪がいくつも現れ、その中を金色の文字のようなものが飛び回っているのが見えた。


『それが何だってんだァ!!!』


 祐子さんに向かって殴りかかってきた悪魔の右手を前脚で払うと、そのまま悪魔の腕が光に飲まれて消えた。


『ギャアアアアーーッ!!』


『ハッキリ言いますけど。学校の怪談で、何マジモンの悪魔が来てんだよって話ですよ。それに……』


 祐子さんは振り向いて、私の顔をチラリと見た。


『私の恩人に手を上げた時点で、貴方の行動は万死に値します』


 不思議な事を言いながら二本脚で立ち上がった祐子さんは、両前脚を振り上げて天空そらを見上げた。


『悪しき者に天の裁きを!!』


『グォォォォォーーーーッ!!!』


 そらから降り注いだ大量の光の槍が悪魔を貫いた。

 再び大量のコウモリのような黒い影へと散り散りになった悪魔の身体は、宙に浮かんだ光の輪に吸い込まれていった。


 そして最後の一匹の姿が見えなくなると、光の輪が砕け散って暗闇の空に溶けて消えた。


『……ふぅ』


 祐子さんは一仕事終えた顔でトコトコと歩いて戻ってきてから、私の前で両前脚を広げた。


『ハン○パワーです!』


『ゴメン祐子さん、それ元ネタが分かんない』


『がーーーーーーんっ!』

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